TCシンポジウム2026 登壇セッション先行プレビュー
前号では、ナレッジグラフによるAIの統治と、現場で「そのまま使える情報」への進化について実証結果を報告しました。次なるステップとして、この情報アーキテクチャをさらに推し進め、世界的な潮流である「半導体設計・チップレット集積」および製造業のデジタルツイン(AAS: Asset Administration Shell)の最前線へと適用領域を拡張していきます。
2026年10月に開催される「TCシンポジウム 2026」にて、この実証検証の成果を発表いたします。本稿では、シンポジウム本番に先駆け、本セッションが狙う「半導体マルチサプライヤー連携の課題」と「技術文書のデータIC化」の核心について、プレビューとしてご紹介します。
半導体サプライチェーンを阻む「PDF仕様書の壁」
現在、半導体業界では物理的な微細化限界を突破するため、複数の異種ダイ(メモリ、ロジック、I/O等)を高密度にパッケージングする「チップレット(Chiplet)集積」が主流となっています。世界中の異なるサプライヤーからダイを調達し、それらを組み合わせて1つのシステムを構築する設計(Design-In)が急速に拡大しています。
しかし、その設計・検証の現場には深刻な断絶が存在しています。
- 各社独自フォーマットの乱立:
端子定格やピン定義が各社独自の非標準CSVや独自フォーマットで提供され、互換性が欠如している。 - 自然言語注記に埋もれた動的安全ルール:
電源投入順序(パワーシーケンス)や過電圧保護などの致命的な安全制約が、依然として自然言語のPDF仕様書や注記に記載されている。
設計者は何百ページもの仕様書を目視で読み解き、EDA(回路設計)ツールやDRC(デザインルールチェック)へ手動で制約を入力しています。この「読み落とし」や「転記ミス」に起因する論理衝突は、試作後のチップ破損や数ヶ月単位の手戻り事故を発生させます。
一方で、この仕様書をLLM(大規模言語モデル)に直接投入して自動変換させようとすると、微細な動的計算式(VIH = 0.8 x VCC 等)の解釈でハルシネーションを起こし、0.1%の誤りも許されない設計現場では実用化の壁に突き当たっていました。
発表のハイライト:確定論的ナレッジグラフによる「データIC化」
本シンポジウムのセッションでは、ドイツインダストリー4.0の国際標準(AASサブモデル仕様 IDTA 02004 / DIN SPEC 91526 iiRDS)および W3C SKOSオントロジー を融合させた新たなデータ連携手法を発表します。
AIの柔軟な文脈理解とプログラムの確定的な型安全性を明確に分離し、仕様書から客観的事実を抽出して型安全な知識グラフ「iiRDS Data IC」へと変換するパイプラインを確立しました。

本セッションで明かす3つの技術ブレイクスルー
- 仕様書注記から「動的安全ルール」を100%型安全にデータ化
テキスト注記に埋もれた過電圧警告や時間制約を、ハルシネーションなく確定論的に構造化するアプローチ。 - 手作業ゼロの「多出力プロジェクション」
単一のナレッジグラフ(JSON-LD)から、後工程のECADライブラリ用スペックCSVおよびDRCルール用CSVへ手作業を介さず瞬時に切り出す実証成果。 - 実機試作前の「論理シミュレーション」(Neo4j連携)
異種ベンダーのデータIC同士をグラフデータベース上で結合し、回路を引く前の段階でマルチサプライヤー間の動作矛盾や電圧超過を100%検知する検証結果。
技術文書は「読むもの」から「駆動する部品」へ
これまで技術者が行ってきた「PDFを開き、目を皿のようにして注記を追い、CADへ手入力する」という作業は、過去のものになろうとしています。
国際標準に準拠した情報構造を与えることで、技術文書は単なる社内ドキュメントの枠を脱し、「サプライチェーン全体でそのまま駆動するデータ部品(データIC)」へと昇華します。そして、そのデータ部品の品質と構造を司る存在こそが、これからのテクニカルコミュニケーターおよび情報アーキテクトです。
シンポジウムの発表では、プロンプトの設計ノウハウ、生成されたJSON-LDの実データ、およびNeo4jを用いた論理シミュレーションの具体的なクエリ実行ログまで、詳細な実証データを交えてお話しします。
技術文書の新たな可能性と、製造エコシステムにおけるデータガバナンスの未来をぜひ会場で体感してください。
セッション概要
(※シンポジウム終了後、本Webサイトにて検証レポートおよび詳細データを公開予定です。)
<終わりー AI時代の情報設計:国際標準(AAS/iiRDS)が変える半導体設計連携>






