日本語執筆時にAI翻訳を活用するワークフローを実現するために、そのポイントを検討していきます。
第1回 翻訳ワークフローのめざす姿の特徴は何か? [2021.11]
これまでの一般的な翻訳ワークフロー
これまでの一般的な翻訳ワークフローを振り返り、そのポイントを洗い出し、めざす姿を検討します。
翻訳ワークフローの執筆工程、翻訳工程、仕上げ工程のポイントを見ていきます。
執筆工程
翻訳依頼をかけ、仕上がってくるまでのリードタイムを考慮するため、日本語版が完成する前に作業中のデータを切り出して順次英訳に着手する必要がでてくることがあります。日本語版完成前に着手するので、その後の追加、修正にも順次対応が必要となり、このこと自身が作業を煩雑にする要因の一つにもなります。
翻訳ベンダーに依頼するため、見積を取得しスケジュールの調整が必要です。見積作成に必要な翻訳用データ、翻訳メモリ(TM)、英語固有のガイドラインの準備が必要であったり、複数ベンダーに依頼をかける場合には、それぞれのベンダーと調整するための時間が必要となります。
<ポイント>
・日本語版の完成前に英訳に着手することで後工程での作業が煩雑になる。
・翻訳に必要なファイルの準備や翻訳ベンダーとの調整に時間が必要。
翻訳工程
英訳の戻しは、翻訳ベンダーとのスケジュール調整が必要であったり、自社の都合だけでは決められないことがあります。日本語版の追加・修正に対しても、スケジュール調整が発生します。順次仕上がってくる英訳は、英語版データに順次反映させるので、日本語版が修正される度に同様の繰り返し作業が必要になり、英語版データの修正作業も続くことになります。
<ポイント>
・英訳の戻しは、翻訳ベンダーとの日程調整が必要で、制作スケジュール全体にも考慮が必要となる。
・日本語版の修正に追随するため、英語版も繰り返し反映していく必要がある。
仕上げ工程
翻訳後、内容の正確性のチェックやネイティブによるチェックをかけ、英語版データの制作を進めます。翻訳に使用した翻訳メモリに似て非なる対訳データが含まれていれば、間違ったものが選択されている可能性もあるため、正確性チェックは重要です。英語固有のルールが適用されているか、レイアウトは正しいか、間違いなく修正反映されているか、を確認できたところで、英語版データが完成します。そして、次回の翻訳作業のためのTM整理をします。
<ポイント>
・ネイティブチェック、正確性チェックが品質を維持するために必要。
・次回翻訳のための翻訳メモリ(TM)作成が必要。
めざす翻訳ワークフロー
これまでの一般的な翻訳ワークフローのポイントを改善しためざす翻訳ワークフローを示します。
めざす翻訳ワークフローの特徴は以下の3点です。
①日本語校正
日本語版制作時に、日本語校正ツールを使って、原文の誤字脱字や、修飾関係のあいまいさをチェックし、誤訳を低減する翻訳しやすい日本語を作成します。
②AI翻訳活用
執筆者がAI翻訳の結果をみながら原文を修正していくことができるので、原文の論理性が向上します。リバース翻訳を活用することで、元々意図していた内容であるかを日本語で確認することもできます。日本語の完成度を高めてから翻訳するので、出戻りの発生を削減し、自社の対訳データを教師データにAI学習した自社専用の翻訳モデルの活用で翻訳のリードタイムを短縮します。翻訳作業の時間が短縮できるため、日本語版が完成してから翻訳作業に着手できるようになります。
ネイティブチェックや正確性チェックでは、執筆者への記述内容の論理性確認を削減し、言語的表現や内容の正確性といったそれぞれの視点に絞って作業を進めることができます。
③教師データの継続的な改善
検証済の翻訳結果を教師データに反映します。CATツールを活用して、制作用データの管理と自社専用のAI翻訳モデルの継続的改善のための教師データ(検証済の対訳データ)を管理します。保存する対訳データに完成版に使用されなかった対訳データの混入を防ぐことで、教師データの管理を行い、翻訳精度を改善していくプロセスを継続します。
これらにより、先に挙げた原文執筆時にAI翻訳を活用することの3つの利点を実現します。
次回以降で、それぞれの工程においてどのように活用していけばよいのか、具体的に見ていきます。
(終わり:翻訳ワークフローのめざす姿の特徴は何か?)
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第2回 日本語版ソース完成後に、英語版制作を着手できたら? [2021.12]
執筆工程に着目します。
日本文執筆時に、適切な用語使用や文としての論理性確保など、可能な限り日本語版ソースの完成度を高め、日本語版の完成後に英語版を制作できれば、翻訳工程での記述内容の確認などコミュニケーション負荷を軽減し、手戻り作業を削減することで英語版制作の時間短縮を図れます。短縮できた時間は、日本文執筆に多くの時間を割けられるようにもなります。
執筆者の負担を増やすことなく、完成度をあげられることがポイントです。執筆作業を中断させられることなく、自己完結型で作業を進めるためにツールを活用します。適切な用語使用や文の論理性確認を、必要な時に必要な箇所に対して、待ち時間なくセルフチェックできるので、余計なストレスを抱えることなく執筆作業を進められます。
執筆時に有効なツールを2つ挙げます。
- 適切な用語使用 – 日本語校正ツールの活用
- 文の論理性確認 – AI翻訳ツールの活用
原文の品質向上にジャストシステム「Just Right!」の使いこなし
ジャストシステムの「Just Right!」には、入力ミスや編集ミスによる誤字脱字、句読点が連続している箇所、誤って表記された熟語・外来語のチェックのほか、誤って使われている可能性のある慣用的な言い回しや、誤解を招く表現や冗長な表現など、目的に応じてチェック項目を設定し確認できます。校正用の辞書を活用することで適切な用語の使用をチェックすることもできます。翻訳元の誤りは、そのまま翻訳結果に反映されるので原文の正確性は重要です。執筆者がJust Right!を活用して自身で確認しながら、表記ゆれがない、正確な用語を使用した原文を作成できます。(参考:チェック項目の詳細 Just Right! の校正設定と項目 - Just Right!活用ガイド)
原文の論理性確認にAI翻訳を活用
AI翻訳は、原文に記述された内容を翻訳するので、原文に主語や目的語がなかったり、係り受けがあいまいであったりすると、「あいまいさ」を反映した翻訳となります。この特性を活かして、AI翻訳の結果が意図した翻訳でなかったときには、原文を修正して改善していきます。日英訳されたAI翻訳の結果をさらに英日でリバース翻訳すれば、日本語で伝わる内容になっているかを確認できます。執筆した原文を1文単位に、何度でも、翻訳結果をその場で確認しながら原文改善作業を進められます。完成した原文は、文としての論理性が明確になり、AI翻訳にも対応できる原文になります。(参考:TCシンポジウム 事例研究発表:AI翻訳だからこそ翻訳元の文に論理性が必要)
日本語版ソース完成後に、英語版を制作
執筆における一連の作業は、自分の都合で実施できるため、必要な時に、必要な分だけ、何度でも、ツールを使用して確認できます。日本語校正ツールやAI翻訳の結果を見ながら自ら修正できるので、自分本位にストレスなく業務を行えます。[ストレスフリー]
原文の論理性が向上することで、翻訳工程での論理性欠如による申し送りや内容確認作業が軽減でき、原文作成から翻訳作業等でのコミュニケーション負荷が軽減し、翻訳作業ではAI翻訳を活用し、待ち時間を削減して翻訳結果を取得し、ネイティブチェックや、翻訳内容の正確性確認に進められます。[共同作業の円滑化]
制作工程間での段取りを整える調整時間や依頼作業が完了するまでの待ち時間が短縮できるため、制作作業に関連する付帯業務を削減でき、英文マニュアル完成までの制作時間が短縮できます。[無駄を削減]
翻訳工程の短縮で、日本文完成をギリギリまで待てるようになり、原文執筆のための時間に向けられるようにもなります。
(終わり:日本語版ソース完成後に、英語版制作を着手できたら?)
第3回 AI翻訳ツール活用の勘所は? [2022.1]
日本語執筆時にAI翻訳を活用するワークフローの3回目は、AI翻訳ツール活用の勘所を考えます。AI翻訳の結果は学習した内容に依存しますので、意図どおりの翻訳結果を得るための大事な点は、教師データをきちんと管理することです。そのポイントを3つ挙げます。
1.既存取説を元にしたAI教師データの活用
2.訳文の正確性確認
3.教師データの継続的な改善
- 既存取説を元にしたAI教師データの活用
AI翻訳から意図した結果を得るポイントは、AI学習に使用した教師データと、これから翻訳したい文章の類似性が高いことです。既存取説データは、自社固有の表現や用語を使用した文章の集合体ですし、公開情報としてのチェックプロセスを経たものですので、AI教師データとして活用するために最適なものと言えます。既存取説データを元に日本文と英文の対となった対訳データを作成し、AI学習のための教師データを作成します。
既存のTranslation Memoryを使用する場合には注意が必要です。過去の取説作成に使用したデータではありますが、公開しなかった作業中データが混在しているかもしれません。未確認データや不採用だったデータが含まれると、AI翻訳の結果に影響しますし、Translation Memoryに作成時期が特定できないデータがある場合には、昔の情報に基づいたAI翻訳の結果が出力されてしまう可能性もあります。既存のTranslation Memoryデータは、すでに対訳データと存在しているためすぐにAI教師データに活用できそうですが、意図した翻訳を得るAI翻訳の教師データに利用することは、思わぬ結果を招きかねないことに留意が必要です。 - 訳文の正確性確認
AI翻訳は、執筆した文章を唯一の入力情報として翻訳しますので、翻訳結果の正確性確認は重要です。記述対象物が単数か複数かなど、原文に情報が無ければそれを反映した翻訳になりますので、記述対象物をよく知る人が翻訳結果の正確性を確認する必要があります。必要に応じてネイティブチェックを実施します。これらの確認結果は、次のモデルのための教師データに活用しますので、訳文のチェックは、教師データの改善プロセスにとっても重要です。 - 教師データの継続的な改善
意図したとおりの翻訳結果を維持するためには、教師データの維持・管理が重要です。この作業プラットフォームにCATツールを活用します。現在の制作物を作成するための訳文修正作業と、次のモデルでの教師データとして使用するための作業を同時に進められます。不採用データの除去や、作成時期などのデータ管理もCATツールを通して行うことで、教師データの継続的な維持・管理を行います。
AI翻訳結果の修正作業負荷を軽減することで、翻訳工程作業を効率化します。取説の執筆時点でAI翻訳ツールを活用することで文章としての論理性を確保することで、記述内容を確認するといったコミュニケーション負荷を軽減し、人の作業を翻訳結果の正確性確認やネイティブチェックに集中します。ツールで対応できるところはツールを活用し、人でなければできないところに人が作業を集中できるようにします。検証済みのデータは次のAI翻訳のための教師データに活用し、改善プロセスを実行することで、作業効率を上げていきます。
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(終わり:AI翻訳ツール活用の勘所は?)
第4回 FrameMakerから直接、AI翻訳ツールを活用する[2022.2]
AI翻訳ツールを使う時に、翻訳したい文章と訳文のコピー&ペースト(いわゆるコピペ)操作を繰り返すことを手間に感じませんか?今回は、FrameMakerから楽にAI翻訳を活用する方法を考えます。
FrameMakerの画面上から、指定した日本文を直接AI翻訳ツールに直接渡して、FrameMakerの画面を通して編集して本文に戻すことができれば、コピー&ペースト作業といった単純な操作ではありますが、煩わしい作業が不要になります。
多くのAI翻訳ツールは、Webブラウザを通して原文を翻訳したい言語に翻訳しますので、テキストを日英翻訳するときには、だいたい以下のような手順になります。
1.FrameMakerで執筆中の日本語原文をコピーする
2.WebブラウザのAI翻訳ツール画面の翻訳元エリアにペーストする
3.翻訳する
4.翻訳された英文を確認する
原文の論理性確認は、原文を日英翻訳した後に、翻訳された英文をさらに英日のリバース翻訳することで日本文で確認できますが、その手順を続けると、
5.翻訳された英文をコピーする。
6.コピーした英文を翻訳元エリアにペーストする
7.翻訳する
8.翻訳された日本文を確認する
翻訳結果が元々意図していた内容と違った場合には日本語原文を修正し、必要に応じてこの手順を繰り返すことになります。
9.翻訳手順の繰り返し
修正完了したときには、日本語原文を元々のソースデータに戻すために、
10.修正完了した日本文のコピー
11.FrameMakerにペースト
これでようやくソースデータとして日本語原文が完成です。なかなかの手間です。
ISEのFrameMakerプラグインは、ロゼッタのT-4OO/T-3MTのAPI連携機能により直接連携できます。これにより、執筆作業は、FrameMakerの画面上だけで、執筆作業と原文の論理性確認作業が行えるので、複数のアプリケーションを使用する必要がありません[図を参照]。記述したい内容に集中することができます。
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(終わり:第4回 FrameMakerから直接、AI翻訳ツールを活用する)
第5回 マニュアル制作の改定作業を楽にするAI翻訳活用 [2022.03]
マニュアル制作の改定作業の時、変更された箇所のみに作業を集中できることが大事です。変更する必要がない箇所が変わっていないことを確認できれば作業対象外にでき、変更された箇所に作業を集中できます。改定作業を軽減させる3つのポイントを上げます。
1.変更箇所の自動マーキング
変更箇所を自動的にマーキングできれば視覚的に確認できるので、マーキングされたところに作業を集中できます。変更が不要な箇所にマーキングがある場合には、何かしら変更があったことを示します。変更が必要な箇所にマーキングがない場合には、何も変更していないことを示すので、作業漏れがないか確認できます。
2.変更箇所の自動抽出
原文が修正され翻訳が必要となる箇所の抽出作業を自動化することで、編集漏れや修正の必要がない箇所への誤作業を防げます。修正された箇所だけを翻訳対象とする翻訳用データを自動生成すれば、必要となる箇所だけ翻訳できます。
3.変更箇所の自動反映
変更された箇所は、多言語データの適切な箇所に反映させる必要があります。この作業を自動化すれば、予期しない操作ミスを防ぐので品質向上を実現し、作業時間の短縮も可能です。
ISEの差分翻訳を実現するAodbe製品用のプラグインでは、差分を抜き出し、AI翻訳を活用し、変更箇所の差分取り込みが可能です。多言語データのレイアウトが保持されるので、翻訳だけでなく、チェックにかかる作業時間を短縮します。変更する必要のあるところに作業を集中し、変更が不要なところを作業対象外にすることで、取説のあたりまえ品質を担保します。対応するAdobe製品は、InDesign、Illustrator、FrameMakerです。
(終わり:第5回 マニュアル制作の改定作業を楽にするAI翻訳活用)