“first floor”って何階なのとお尋ねしておきながら恐縮ですが、まず機械翻訳(AI翻訳)でもアメリカ英語とイギリス英語の使い分けを意識する必要があるというお話から始めさせていただきます。
アメリカ英語とイギリス英語の使い分け
これまでに、日本の各企業の英文ドキュメントを数多く評価してきました。その際、必ず確認することの一つに、ドキュメントの仕向け地があります。ドキュメントのターゲットが、アメリカ市場なのかヨーロッパ市場なのかによって、アメリカ英語とイギリス英語のどちらを使用するかが決まるからです。(もちろん、ヨーロッパ市場向けであっても、最近のグローバル市場化によって、アメリカ英語が指定されることも多くなっています。)
取り扱う製品によっても、アメリカ英語とイギリス英語のどちらを使用するかが異なります。コンピューター関連などの最先端機器の場合は、その産業のオピニオンリーダーが多いアメリカ英語でしょうし、反対に、管楽器など伝統を重んじる製品の場合はイギリス英語になります。最先端の機器を購入したはずのユーザーがイギリス英語で書かれた添付ドキュメントを見たら、この製品ってほんとに最新なのかと疑ったりするかもしれません。それに対して、高級なハンドメイドのフルートの付属ドキュメントがアメリカ英語で書かれていたら、このフルートは大量生産品じゃないのと疑ったりするかもしれません。
自分の参考用に機械翻訳を使うのでしたら問題無いのですが、最近の優秀な機械翻訳を使って製品付属の英文ドキュメントをつくるのであれば、このアメリカ英語とイギリス英語の使い分けに敏感になる必要があります。第一、1つの英文ドキュメントの中で、同じ意味の言葉にアメリカ英語とイギリス英語が混じっていたらみっともないですしね。
ということで、前置きが長くなりましたが、今回は、機械翻訳にも影響するアメリカ英語とイギリス英語の使い分けをご説明します。
自動車関連の用語
まず、自動車関連の用語についてご説明します。自動車産業はアメリカとイギリスでそれぞれ発展してきましたので、多くの用語で異なっています。また、話がややこしくなるのですが、自動車産業は日本でも発展してきましたので、日本語のカタカナ用語にはアメリカ英語でもない、イギリス英語でもないものがあります。たとえば、日本語のフロントガラスは、アメリカ英語ではwindshieldですし、イギリス英語ではwindscreenです。 そのほかの代表的なものを以下に挙げます。
日本語 | アメリカ英語 | イギリス英語 |
サイドブレーキ | emergency brake | handbrake |
フェンダー | fender | wing |
ボンネット | hood | bonnet |
ショックアブソーバー | shock absorber | damper |
(車の)トランク | trunk | boot |
ウインカー | turn signals (blinkers) | turn indicators (blinkers) |
ナンバープレート | license plate | number plate |
トラック | truck | lorry |
ガソリンスタンド | gas station | petrol station |
高速道路 | highway | motorway |
これらの名称は、あくまでも出自を示しているわけで、現在では、地域に関わらず、どちらかが多く使用されているものもあります。ウインカーというのは、その出自はともかく、どうやら和製英語のようです。turn signalsやturn indicatorsは正式な用語であり、両国ともで口語的にblinkersも使われているようです。
音楽用語の場合
音楽用語の場合、小節は、アメリカ英語ではmeasureですし、イギリス英語ではbarです。また、シアターオルガンは、アメリカ英語ではtheater organとつづりますし(下線部)、イギリス英語ではtheatre organ(下線部)とつづります。インターネットで検索してみますと、アメリカ英語のtheater organが123,000件、そしてイギリス英語のtheatre organ が210,000件です。アメリカの球場などにも設置されているシアターオルガンはtheatre organとしたほうがイメージが湧くようです。
ただし、音楽用語や楽器用語は、アメリカ英語とイギリス英語の違いというよりも、音楽ジャンルによって異なる呼び方をしていたりするようです。
なお、crescendoクレッシェンドの反対はdecrescendoデクレッシェンドではなく、diminuendoのほうが正式なようですが、crescendoクレッシェンドの反対語としてdecrescendoの使用が増えています。
そのほかの違い
そのほか、アメリカ英語とイギリス英語の主な違いを挙げておきます。
日本語 | アメリカ英語 | イギリス英語 |
郵便ポスト | mailbox | postbox |
鉄道 | railroad | railway |
小学校 | elementary school | primary school |
フリーダイアル | toll-free | free dial |
エレベーター | elevator | lift |
トイレ | bathroom (restroom) | toilet |
スパナ | wrench | spanner |
六角レンチ | hex key | allen key |
(ビルの)1階/2階 | first floor/second floor | ground floor/first floor |
いずれにしても、ドキュメントの仕向け地を確認し、用語を統一して、一つのドキュメントの中でアメリカ英語とイギリス英語が混在することのないように注意することが必要です。
“first floor”は何階?
さて、”first floor”が何階であるかのお話です。日本やアメリカでは、エレベーターの1階は「地上階」のことを意味します。しかし、イギリスなどのヨーロッパの国々では、「地上階」はground floorであり、2階はfirst floorとなります。以下の写真は、Aがカナダ(オタワ大学)のものであり、Bがドイツ(某ホテル)のものです。「ヨーロッパの国々」と申しあげましたが、カナダもイギリス式で表示されています。


Aの写真では地下階がないので「0」の表示階が「地上階」を意味していることは明白です(それにしても、一見してわかりにくい階表示配列ですよね)。Bの写真を見ると、ほとんどの人がとまどってしまうのではないでしょうか。だって、「地上階」の下に1階と地下1階があるように思えるのですから。調べてみたら、実は、そのとおりの構造でした!!
ここまでお話ししたところで、この話題にぴったりのリンク先が見つかりました。ぜひ、ご覧ください。
市民混乱の「英国式G階」廃止 宝塚市役所、地上階=1階に (毎日新聞 2023/2/7)
https://mainichi.jp/articles/20230207/k00/00m/040/143000c
ちょっと、話が横道にそれてしまいましたが、このことから、機械翻訳でも、⼀般に公開する英⽂ドキュメントでは、アメリカ英語とイギリス英語の使い分けを意識する必要があるということが理解できます。
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