今月も先月と同様に日本語原文の問題点を取り上げます。ここ最近の翻訳チェックの結果からの気づきを参考にしたものです。(前回記事はこちら)
主なトピック
・長文の問題
- 対策1 2文に分ける
- 対策2 同格の項目がある場合は、箇条書きにして書き出す
・並列の問題
・順接の「が」
長文の問題
長文の問題は、これまでMT関連のトピックの一つとして必ず上がってきました(たしか、このコラムでも、2か月ほど前に取り上げましたよね)。しかし、皆さんもMTをお使いになられておわかりいただいている方も多いと思いますが、実は、最近のMTは長文があまり苦手ではありません。その翻訳結果の内容に感心するものも多いです。だって、人間だったらその長ったらしい文構造をなんとか理解して、その文意を解釈しようとするのに対して、MTは何の造作もなく瞬時に翻訳結果を提示してくれるのですから。MTは、もう原文の品質にはこだわる必要は無くなったのですよとおっしゃっていた先生の笑顔が目に浮かぶようです。
だったら、なぜ長文を問題として取り上げるのかというと、その翻訳結果を使用するのは人間だからです。つまり、いくらMTが人間の能力以上に力を発揮するようになったとしても、その原文やMT翻訳の結果を利用するのは、わたしたち人間なのです。ですから、その原文やMT翻訳の結果を人間にとってわかりやすくする必要があります。MTがいくら優秀だからといって(といっても限られていますが)、MTの進化に人間が追いつけないのであれば、意味がありません。
以下の例文を見てください。日本語原文が178字の長文です。これをMT翻訳してみました。
[日本語原文]:
AQ/BQおよびCQの結果が予め定めた基準に適合した時、REDの包装条件、REDのチャンバー内の積載条件、出荷可否判定用のテストパックの設定とそのチャンバー内への積載場所、EI、SIの積載物への設置法、受託パラメータなどの妥当性を検討して、適切であると統括責任者が判断したバリデーション報告書に基づき、日常の再生処理に用いる標準作業手順書(SOP)を作成し統括責任者の承認を得る。(178字)
[MT翻訳文]:
When AQ/BQ and CQ results meet predetermined criteria, the RED packaging conditions, the RED loading conditions in the chamber, the setting of a test pack for determining whether or not to ship, the place of loading in the chamber, installation method of EI and SI on the load, and the consignment parameter, etc. are examined, a standard operating procedure (SOP ) to be used for daily regeneration processing is created based on a validation report judged to be appropriate by the person in charge of consignment, and the person in charge of the consignment is approved Get. (97語)
前半部はなんとか翻訳できていたのですが、後半の下線部はどうでしょうか。MTは混乱して構文解析に失敗してしまったようです。MTは、長文は苦手というわけでもないようですが、長文になると、このように、主体や客体が入り混じると、時として混乱することがあります。
■対策1 2文に分ける
そこで、このような混乱を起こさないようにするために、長文を2文に分けてみます。
[日本語原文]:
AQ/BQおよびCQの結果が予め定めた基準に適合した時、REDの包装条件、REDのチャンバー内の積載条件、出荷可否判定用のテストパックの設定とそのチャンバー内への積載場所、EI、SIの積載物への設置法、受託パラメータなどの妥当性を検討する。(111字)
そして、適切であると統括責任者が判断したバリデーション報告書に基づき、日常の再生処理に用いる標準作業手順書(SOP)を作成し統括責任者の承認を得る。(72字)
[MT翻訳文]:
When the AQ/BQ and CQ results meet the predetermined criteria, the RED packaging conditions, the RED loading conditions in the chamber, the setting of test packs for judging whether or not they can be shipped and the loading location in the chamber, installation method of EI and SI on the load, and the commitment parameters. (55語)
Based on the validation report deemed appropriate by the general manager, a standard operating procedure (SOP) for daily reprocessing is created and approved by the general manager. (27語)
これでMTはなんとか翻訳できたようですが、前半部分の原文111字と翻訳文55語という文の長さに、人間の理解がついていくのが難しい気がします。一般的に、文の長さは、日本文の場合が45~50字まで、そして英文の場合が25語までというのがライティングガイドラインのルールです。そこで、文を短くしてみることにします。
■対策2 同格の項目がある場合は、箇条書きにして書き出す
MTは長文を苦手というわけでもないのでしょうが、人間にとって長文は苦手です。なぜなら、長文を理解するために結論を見出すまで、ヒトのワーキングメモリーの中にそれぞれの関連する文を保持しておく、つまり、文全体を理解するために記憶に負荷をかけておく必要があるわけですから。そこで、長文を短く区切って単文化して、記憶への負荷を外在化させます。
この例文のように、同格の項目が多くある場合は、箇条書きにして書き出すと、人間にとってわかりやすくなります。箇条書きにして書き出すことにより、長文の構造、つまり、同格のもので何がいくつあるかがシンプルに見えてきます。箇条書きすることにより、その文に対する人間の概念的、論理的な理解が促進されます。
[日本語原文]:
AQ/BQおよびCQの結果が予め定めた基準に適合した時、以下の項目の妥当性を検討する。(40語)
・REDの包装条件 (6字)
・REDのチャンバー内の積載条件 (13字)
・出荷可否判定用のテストパックの設定とそのチャンバー内への積載場所 (32字)
・EI、SIの積載物への設置法 (14字)
・受託パラメータ (7字)
そして、適切であると統括責任者が判断したバリデーション報告書に基づき、日常の再生処理に用いる標準作業手順書(SOP)を作成し統括責任者の承認を得る。(74字)
[MT翻訳文]:
When the AQ/BQ and CQ results meet the predetermined criteria, the validity of the following items is examined: (18語)
・RED packaging requirements (3語)
・RED loading conditions in the chamber (6語)
・Setting up test packs for judging whether or not they can be shipped and where they are loaded in the chamber (21語)
・How to install EI, SI on the load (8語)
・Commitment parameters (2語)
Based on the validation report deemed appropriate by the general manager, a standard operating procedure (SOP) for daily reprocessing is created and approved by the general manager. (27語)
これで、原文も翻訳文もすっきりしましたよね。
先日もご紹介しましたが、私がISOで発行した「ISO 24620-4 Basic principles and methodology for stylistic guidelines (BSG)」の国際規格をご参考にされることをおすすめします。その中のParagraphize (パラグラフ化する)で、長文に対する解決策をまとめています。
https://www.iso.org/standard/79087.html
この国際規格は、ISOから今年の3月に発行されたばかりです。なお、手前みそになりますが、この規格に対応した英文ライティングの書籍、「英文テクニカルライティング72の鉄則」も参考にしていただけると思います。この書籍につきましては、以下のサイトをご覧ください:
https://amzn.to/3NJxIpQ
並列の問題
この並列の問題も長文の中などに潜んでいたりします。並列の問題は、この問題に直面した意識ある翻訳者や読者にしかわからないいやらしい問題です。MT翻訳の場合は、翻訳者のようには悩まずに、その書いてあるままに翻訳、誤訳します。
たとえば、以下の文はどうでしょうか。
[日本語原文]:
受託物の残留EOについての限度値、測定法についての情報
[MT翻訳文]:
1. Limit Value of Residual EO of Consignment Material, Information on Measurement Method
2. Information on the Limit Value of Residual EO of Consignment Material and the Measurement Method
3. Information on the limit values and measurement methods for residual EO in consignments
1と2と3の翻訳の可能性があります。はたして、どちらで解釈すべきなのでしょうか。
1の翻訳:a: 受託物の残留EOの限度値; b: 測定法についての情報
MTは、迷わずに、aとbをそれぞれ別のグループとして翻訳しています。この翻訳が正しいのであれば、読点を区切り記号としてはいけません。TMやMTでは、読点は区切り記号としては認識されないからです。
2の翻訳: (a: 受託物の残留EOについての限度値 + b: 受託物の残留EOの測定法)についての情報
3の翻訳:構造は少し異なるけれど、2の翻訳と同様の内容
翻訳者は、2や3に翻訳したものかと迷います。MTの場合は、読点を文の続きとして解釈しますが、人間の場合は曖昧さを有しているので、どちらか迷うわけです。この場合は、大勢に影響しないので・・・といっても、良心的な翻訳者は悩んでしまいます。正解は、原文を書いた本人だけが知っています。こんな悩ましいことにならないよう、複数の解釈ができない明快な文を書く必要があります。
順接の「が」
接続助詞の「が」は、「しかし」という意味の「逆接」であり「順接」ではありません。しかし、日常の日本語では、この「が」が、よく「順接」として使用されてしまいます。そういうこともあり、接続助詞の「が」を「順接」で使用すると、結果としてMTが混乱してしまいます。
[日本語原文]:
芽胞は微生物のなかでもっとも消毒薬抵抗性が大きいが、特にバチルス属の芽胞は消毒薬抵抗性が大きい。
[MT翻訳文]:
Spores are most disinfectant-resistant among microorganisms, but bacillus spores are particularly disinfectant-resistant.
前の文節から順接でつながっているのに、次の文節の先頭に“but”が含まれると、読者はおやっと思って、混乱する人もいるのではないでしょうか。
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続:MT翻訳を外部文書に使用するときのご注意 (第2回)
企画運営:株式会社 情報システムエンジニアリング 協力: 株式会社 エレクトロスイスジャパン