到着したのはBruxelles、それとも Brussels? – 国際会議レポート2

 先回は、6月に行われたHamburg(ハンブルグ)でのASD-STE100の会議とBrussels(ブリュッセル)でのISO TC37会議についてご報告させていただきました。先回の流れを受けて、今回は、ヨーロッパでの鉄道利用や行政単位ごとに異なる公用語(ベルギー)などについて、ご報告させていただきます。皆さまの参考になりますように。

主なトピック
ハンブルグからブリュッセルへは鉄道利用
到着したのはBruxelles、それとも Brussels?
ブリュッセルの困った乗車券

ASD-STE100 40周年 ― 会議参加者集合写真
STEMG(STE Maintenance Group)会議参加のメンバー全員、(私を除いて)優秀な方々ばかりです。言語関係は、特に、女性の方が多いようです。

ハンブルグからブリュッセルへは鉄道利用

 ハンブルグでのASD-STE100の会議を終えた後、ISO TC37会議が開催されるブリュッセルへの移動は、ICE(ドイツの新幹線)を使いました。ハンブルグからブリュッセルへのICEは、直行便が無いので、途中、ケルンで乗り換えです。

ハンブルグ中央駅

 ICE には、Hamburg Hbf (ハンブルグ中央駅)から乗車します。Hbfとはドイツ語でHauptbahnhof (中央駅)のことです。ハンブルグ中央駅を7分遅れで出発したICEは結局20分遅れでケルン中央駅につきました。(スイス以外では)これぐらいの遅れは普通だと思ってください。乗り継ぎがある場合は、ある程度の乗り換え時間を考慮しておく必要があります。特に、国際線の飛行機の乗り継ぎの場合は、最低、2時間は必要です。最初に搭乗する飛行機が遅れた場合、本人だけは地上勤務員の誘導で乗り継ぎの飛行機に乗れたとしても、預けていた手荷物は乗り継げないこともあります。その場合、最悪のケースとしては、手荷物が行方不明になることがあります。

 私も一度、イギリスのBristol(ブリストル)空港でこの最悪の事態を経験しました。アムステルダムでの乗り継ぎの時間がちょっと短いなと思ったのですが、同じ航空会社が設定した乗り継ぎなので問題ないだろうと高をくくっていました。たまたま同乗していたスペインの友人と一緒に、ブリストル空港のBaggage claim(手荷物受取所)で手荷物が出てくるのを待っていました。友人の手荷物はすぐに出てきたのですが、私の手荷物は一向に出てきません。いつの間にか、私の心の中で“baggravation”が次第に大きくなっていました。“baggravation”とは、“bagggage”と“aggravation”(悪化する)の造語で、自分の手荷物がなかなか出てこないときに生じる焦燥感を意味します。ひょっとしたら、自分の手荷物だけ出てこないのではないだろうか、というわけです。その予感は的中し、手荷物は出てきませんでした。この時、ずっと以前に、スキポール(アムステルダム)空港の誘導路に一つだけぽつんと忘れ去られて捨て置かれた手荷物を飛行機の窓から眺めたことがあったという記憶が私の脳裏をかすめました(あの時もスキポール空港でした!)。結局、その後、自分の手荷物と再開できたのはそれから3日後でした。しかも、かわいそうに私の手荷物はよほど手荒い扱いを受けたのか、ぼろぼろになっていました。その航空会社は、手荷物は次の便で送られてくるので心配いりませんと自信をもって言っていたのですが・・・。まあ、戻ってきただけでもありがたいです。

こういったときは、すぐに衣服や靴や身の回りの品々を、しかも高級品を買うことをおすすめします。必要だと認められるものは、航空会社が弁償してくれるからです。このときばかりは、ブリストルという田舎の町だったことを恨みました。めぼしいブランドショップが無かったからです。結局、買ったのはある有名ブランドのポロシャツだけでした。😋

この“baggravation”について、もう一つお話があります。今回、日本に帰国する飛行機で隣り合せになったフランスの女子学生と一緒に、関西空港のBaggage claimに向かって歩いていたときのことです。彼女に“baggravation”の話をしたところ、私は心配ない、私の手荷物はすでに到着しているからと言い切って、彼女のiPhoneの画面を見せてくれました。なんとその画面には、関西空港の地図の上にAirTagのマークがありました。年配の私と若い彼女の大きな差。私も、アップルが紛失防止用のタグAirTagというものを発売しているということは知っていました。しかし、そういったものがあるということは知っているという、そこまでの私と、何のためらいもなくAirTagを使いこなしている若い女子学生―この差をつくづく思い知らされました。もう笑っちゃうしかないですね。
でも、iPhoneの画面を見て、もしAirTagのマークが無かったときは、彼女はどうしたでしょうか?私であれば、AirTag の情報を信じずに、Baggage claimで手荷物吐き出し口のところをぼんやりと、しかし未練たらしく眺め続けますね、きっと。

 話が脱線してしまいました。ごめんなさい。先ほどの話に戻ります。ともかく、今回の場合は乗り換え時間にも余裕があったので、駅の隣にあるケルン大聖堂を眺めながらきめの細かなケルンのビールでも楽しもうと、駅の外に出てみました。しかし、大聖堂の周りは観光客で溢れかえっていたので、諦めざるを得ませんでした。これはヨーロッパのどこでも同様ですが、コロナ騒ぎなど全く存在しなかったかのような光景です。
 しかたなくケルン駅のホームでICEを待ち続けたわけですが、列車到着の直前になって突然のアナウンスがありました。しかもドイツ語で。聞いていると、どうやらICEの着番線(ホーム)が変わるようです、それを聞いて、地元の乗客たちは慌てて向かい側のホームに移動します。私も重い荷物を抱えながら、階段を下りて、隣のホームに向かいます。隣のホームに上がったら、掲示されているICEの列車編成や電光掲示板で、すぐにセクション(ホームでの列車の停まる位置)と1等車、2等車の位置を確認します。駅のホームのセクションは長くて、AからGぐらいまで分かれているので、慣れているはずの地元の人たちでさえ、遠く離れたところに到着した電車めがけてホーム上をけんめいに走っていく光景をよく見かけます。旅行客であれば、なおさらです。セクションを間違えたために、目的のホームに停車していた反対方向行きの列車に乗ってしまったという話をよく耳にします。

ケルン駅でのブリュッセル行きICEの入線
行き先表示 Bruxelles-Midi (ブリュッセル南駅)の右端にあるのが、ホームでのセクション表示

 ちなみに、ヨーロッパの鉄道では、日本の駅での「乗車位置」や「整列乗車」は存在しないようです。列車の「乗車位置」は、入線するたびに異なるからです。みんな列車に乗る気が無いようなそぶりをしていたかと思うと、列車がホームに入ってきた途端、我先に列車に押し寄せます。ドイツの方々までこうなのかとびっくりしてしまいます。そんな状態なので、「整列乗車」などは夢の話です。

 このように、海外の鉄道では、目的の列車に乗車するまで、常に注意して聞き耳を立てておくことが必要です。それでも、悪天候でも何でもないのに、予定していた列車が取りやめになってひどい目にあったことがありました。8年前に、妻と二人で、個室寝台(しかも、シャワー付きの1等寝台!)でウィーンからチューリッヒに向かおうとして、23時過ぎにウィーン駅のホームでその寝台列車を待っていた時のことでした。突然、私たちの目の前に難民が、ボランティアに誘導されながら、ぞろぞろと行列をなしてホームに上がってきました(そうです、ちょうどヨーロッパで難民問題が起こっていた時のことでした)。その難民用の列車はホームに到着していたのですが、私たちが乗る予定の寝台列車はやってきませんでした。そこで駅のインフォメーションに行って、列車の情報を得ようとしたのですが、もう閉館の時間だからと、問答無用で押し返されました。ホーム上にいる駅員に聞いても誰も的確な情報をくれませんでした。わかったことは、寝台列車はキャンセルになったのだろう、そして、その(Munich[ミュンヘン]に向かう)難民列車は、途中、Salzburg(ザルツブルグ)駅でZurich(チューリッヒ)行きに接続するということでした。ウィーンに残るか、その難民列車に同乗するか、選択を迫られました。難民を手助けする学生ボランティアからは、難民と間違えられて、食べ物を渡されそうになりました。結局、私たちは発車間際のその難民列車のデッキに乗車しました。車内は、難民や地元の人々であふれていたからです。

いつまで経っても表示されない寝台列車
難民と地元民でいっぱいの列車

 また、話が脱線してしまいました。結局、このICEも約10分遅れで出発し、途中、ベルギーの草原で緊急停止をしたりで、ブリュッセルには約30分遅れで到着しました。ブリュッセル南駅行のICEでしたが、その手前のブリュッセル北駅で下車しました。宿泊予定のホテルは治安のあまり良くない南駅の近くでしたが、停車した北駅でなぜか20分程度停まるということなので、せっかちな私は、急遽、北駅で降りることにしました。宿泊予定のホテルもプレメトロ(地下を走る路面電車)の駅のすぐそばだったので、北駅からそのプレメトロに乗るほうが早いと判断したわけです。

到着したのはBruxelles、それとも Brussels?

 どちらもブリュッセルを表す都市名です。ベルギーでは、公用語はオランダ語、フランス語、ドイツ語の3カ国語が使われています(4カ国語だという人もいます)。したがって、それぞれの行政単位によって公用語は異なります。主に使用されるのは、オランダ語とフランス語です。ベルギーの南部では、フランス語方言のWalloon(ワロン語)が使われます。また、北部ではオランダ語方言のFlemish(フラマン語)が使われます。上記のBruxellesはワロン語表記、そしてBrusselsはフラマン語表記のブリュッセルです。
 複数言語が飛び交うのが当たり前の国だからなのか、行き先表示などで、あまり両言語の併記は見かけません。ということで、ベルギー南部に住むワロン人のおじいさんが高速道路を飛ばしてAnversに向かっていたら、突然というか行政単位が変わってしまって、高速道路の行き先がAnvers からAntwerpenに替わってしまい、途方に暮れてしまったという話をよく聞きます。これはどうやら、地元の人たちのジョークのようです。Antwerpenはフラマン語名です(英語名はAntwerp、そして日本語では英語名のアントワープが使われています)。多言語国家ではこのような困ったことが起きてしまいます。

 ちなみに、アントワープの片田舎に住んでいたネロという少年の物語はご存じですよね。そうです、あの少年ネロと愛犬パトラッシュの物語に日本人ならほぼ誰もが涙したという「フランダースの犬」のかわいそうな物語です(オランダの南部からベルギーの北部にかけての地域をフランダース地方と言います)。もう四半世紀も前によくベルギーを訪問していたころに、ベルギーの人たちにこの物語のことを尋ねたことがありました。しかし、不思議なことに、ベルギーの人たちは誰もこの「フランダースの犬」の物語を知りませんでした。そこでだいたいのあらすじを教えてあげると、私たちベルギー人にはそんな不人情な者はいないと一蹴される始末です。後で調べてわかったことですが、この話はイギリス人の作家がかつて滞在していたフランダース地方を背景としてこの物語をつくりあげたのだそうです。つまり、イギリスで出版された物語です。それで、ベルギーではこの物語はあまり知られていません。
 ネロ少年は、あこがれ続けていたルーベンスの「キリストの昇架」と「キリストの降架」が飾られているノートルダム大聖堂(聖母大聖堂)で天に召されていったわけです。ノートルダム大聖堂は、アントワープ市庁舎の隣にあります。ノートルダムと言えばパリの寺院が有名ですが、「聖母大聖堂」という寺院はいろんな町にあります。アントワープ市庁舎も荘厳ですばらしいので、一度うかがわれることをおすすめします。

アントワープ市庁舎
ノートルダム大聖堂
キリストの昇架
キリストの降架
これがあのネロとパトラッシュ???

 ベルギーではこの物語はあまり知られていないのですが、不思議なことに、多数の日本からの観光客がネロの住んでいたところはどこですかと尋ねてくるので、ひょっとしたら観光産業の振興に役立つかもと、地元の観光協会がネロとパトラッシュの像をつくったのだそうです。あのアニメのネロとパトラッシュからすると、こちらの写真は、日本人にとってはあれーっという感じですよね。スイスのマイエンフェルトのハイジにしても、あれーっという感じです。(ただ、スイスのユングフラウ鉄道で、突然テレビの画面から、日本のアニメのハイジが飛び出してきて、日本語で案内をはじめたときは、やられたっと思いました。

ブリュッセルの困った乗車券

 ブリュッセルの地下鉄や路面電車、バスなどの公共交通機関を1時間以内ならどれだけ乗ってもいいという便利な乗車券があります。駅の券売機で1枚2.6ユーロで購入できます。以前はクレジットカードでなければ買えなかったりしたのですが、現在では、現金でも買えるようになっています。しかも、紙幣も使えますし、おつりもちゃんと出てきます!(昔は、出てきませんでした。)
「1時間以内」というのは、初乗車から1時間経過する前に最後に乗車するところまでです。降りる時間ではありません。

 ところが、この乗車券には大きな欠陥があります。それはなにかというと、電子カードですので、入錠したという目印がどこにも打刻されないのです。したがって、帰りの分も買っておこうと2枚買って、それを同じポケットに入れてしまったりすると、はっと恐怖に襲われることがあります。どっちの乗車券で改札を通ったのかわからなくなるからです。滞在する日数分買っていたりしたら、まるでトランプのババ抜きです。しかも、どのカードがババなのかわからないままの!
 以前は、駅や電車やバスに備えつけられている打刻器でその乗車券の乗車日時を打刻してverifyしなければいけませんでした。以前は、verifyしないまま乗車していると、検札のときに、不正乗車しようとしたとして、罰金を取られていたからです。ところが、現在は、電子式になって乗車券に乗車日時の記録が残るので、その心配は無くなりました。しかし、今度は、どの乗車券で乗ったのかわからなくなるという問題が生じています。なんとかすっきりできないものでしょうか。

フランダース地方について
 このフランダース地方は、昔から、印刷や翻訳が盛んでした。ドイツのマインツで印刷を発明し、成功していたグーテンベルグが、負債を抱えてフランダース地方に逃れてきて、そこで印刷を伝えたという話もありますが、これは定かではありません。いずれにしても、イギリスやドイツやフランスという大国に囲まれたフランダースは、大国間貿易の中継地になったりしたこともあって、印刷や翻訳が盛んになったのではないでしょうか。 
 ということで、私も、メーカーに勤務していたころから、よくこのフランダース地方にある印刷会社を使っていました。日本の印刷品質に対応できるクオリティを備えていたのは、ヨーロッパではこのあたりの会社ぐらいだったからです。また、このフランダース地方には、当時、台頭し始めていたいわゆるMLV (Multi Language Vendor)の拠点も複数ありました。MLVは、それまでの家族経営のSLV (Single Language Vendor)、たとえば、フランス国内でフランス語だけを扱う小規模の翻訳会社とは異なっていました。MLV1社に依頼すれば、同時に多言語に展開できるのですから。ということで、メーカーに勤務していたころ、このフランダース地方で、英語以降の言語の翻訳を任せられる、信頼できるMLVのパートナーを見つけ出しました。その会社はMedezという会社でした。その会社は“L’Arsenal”(武器庫)という変わったビルにありました。
 あれから四半世紀も時間が流れましたので、もちろん今は、Medez社は存在しません。その後、MLV各社は、統廃合を繰り返していきました。その流れの中で、Medez社は、音声認識のパイオニアであったL&Hに買収されて、L&H Mendezとなりました。そして突然、親会社のL&H がNasdacでの粉飾決算で破産しました。そのため、Medez社はアメリカの証券印刷大手のBawn 社に買収され、Bawn Global Solutions (BGS)に吸収されました。ところが、ある年、突然、親会社のBawn社がMLV事業への興味をなくし、Lionbridgeに売却しました。
そのLionbridge社は、現在、翻訳の分野での売り上げが世界第4位となっていますが、これは軍需関係の翻訳を含めた売り上げに基づくものです。民需という意味では、Lionbridge社は、実質的に世界第一位の売り上げを誇る会社に成長しています。

“L’Arsenal”(武器庫):‎1998‎年‎11‎月‎17‎日撮影

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