「つたえる」という視点でAI翻訳活⽤法を考えたとき、ふと、生成AIはテクニカルライティングについてどの程度、知識があるのだろうか、理解しているのだろうかと気になってきました。そこで、生成AIがどの程度テクニカルライティングについて知識があるのか、ChatGPTとChatGPT を組み込んだBing AIに尋ねてみました。テクニカルライティングは、わたしがずっと長い間、勉強し続けてきたことですので、どんなことを教えてもらえるのか楽しみです。
ChatGPT、Bing AIへの質問
質問は以下のとおりです。なお、使用したChatGPTは、無料版の3.5です。
ChatGPTの回答
ChatGPTの回答に対する感想
基本的に、よく答えてもらっていると思います。特に、「クリアな目的の設定」と「ターゲットオーディエンスの理解」が最初に述べられるのは、いいですね。目的や対象となる読者層を決めないままに書き始めると、まとまりのない文になってしまうことが多いですからね。
ちょっと余談になりますが、もう40年ぐらい前の昔のこと、私は、メーカーで海外向けの広告を担当していたことがありました。おわかりのように、新商品開発時には、担当する広告代理店に向けて、カタログなどの販促物を制作するためのプレゼンを行ないます。その際に、出席している開発者に、商品の対象購買層を尋ねるのですが、明快な答えが出てこないのです。そこで問い詰めると、毎回、「ぜ、ぜ、ぜーんぶ。オールエイジ」という答えが返ってくるのでした。良い時代でした。
すみません、横道にそれまして。しかし、その後に続く項目を見ると、ちょっと物足りなくて、がっかりしてしまいます。「シンプルで理解しやすい言葉を選ぶ」とか「文書を構造化する」とありますが、具体的にどのようなことをして書くのかがわかりません。また、それ以降の項目も、テクニカルライティングでなくても考えられそうなことばかりです。つまり、一般的なことしか言っていないような気がします。
どうやら、ChatGPTは、ウェブ上にある関連ドキュメントを検索してきて、それを「無難に」まとめているようです。これを人間に例えるなら、一般的な説明が得意なベテラン社員とでもいうのでしょうか。これぐらいできれば、新入社員研修あたりでそれなりに使えそうですね。
Bing AIの回答
Bing AIの回答に対する感想
ChatGPTよりも簡潔にまとめられています。まず、「技術的な内容を目的や読者に合わせて分かりやすく伝えるための文章作成の技法」というところはいいですね。
次に、テクニカルライティングはロジカルライティングであるというところはどうでしょうか。これは、両者は基本的には別のものですよね。元々、テクニカルライティングは、論理的に書くことが基本ですので、改めてロジカルライティングと言って両者を混同するという混乱を招く必要はないのではないでしょうか。用語やその概念は適切に使用すべきです。皆さまはどう思われますか?
テクニカルライティングは、そのルーツをたどるとすれば、1900年代前半のThe Element of StyleのWilliam Strunkまでさかのぼります(The Element of Styleは最初につくられたライティングガイドです!)。しかし、一般的には、戦後の産業革新の流れの中で、先端機器が人々の生活の中に広がり始めたころに確立されていったライティング技術だと言われています。それまでのトピック(技術)中心のライティングから、そのトピック(技術)の幅広いユーザーに、使い方をわかりやすく伝えるという需要が出てきたのです。
次の「文書表現」のところでは、「一文一義の原則」や「長い単語やフレーズは短い単語に置き換える」、「修飾語や強意語は多用しない」、「抽象的な名詞は動詞に置き換える」とあります。これらは、いずれも英文テクニカルライティングでの「One topic, one sentence」や「Replace Long words with Plain words」、「Prune unnecessary flowery adjectives and adverbs」、「Avoid nominalizations」を日本語に翻訳したもののようです。これらについては、次回、説明することにします。「接続詞は最小限に抑える」というのは誤解される恐れがありますので、適切ではありません。ここも次回、説明します。
ChatGPTの説明よりもBing AIの説明のほうが、具体的な記述が成されていて、わかりやすくなっています。ただし、そうは言うものの、「ロジカルライティング」と「接続詞は最小限に抑える」というところは、長くテクニカルライティングを学んできたわたしには、ちょっと引っかかるところがあります。また、Bing AIでも説明し切れていないところがあります。このあたりは、次回お話しさせていただきます。
「用字用語」のところに、「統一感と正確さ」、そして「用語や略語は定義する」、「同じ意味の言葉は同じ表記にする」とあります。これらも英文テクニカルライティングで注意すべき点です。「統一感と正確さ」、そして「用語や略語は定義する」、「同じ意味の言葉は同じ表記にする」は、それぞれ「Consistency and coherence」、「Word usages」、「Keywords」ですね。
最後に
ChatGPTの説明よりもBing AIの説明のほうが、具体的な記述が成されていて、わかりやすくなっています。ただし、そうは言うものの、「ロジカルライティング」と「接続詞は最小限に抑える」というところは、長くテクニカルライティングを学んできたわたしには、ちょっと引っかかるところがあります。また、Bing AIでも説明し切れていないところがあります。このあたりは、次回お話しさせていただきます。
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