ChatGPT 4.0でカスタム生成AI「TechWrite Guru」を作成しました。これは、テクニカルライティングのルールに則っているかを確認し、修正案を作成できるようにしたものです。前回、サンプル文章の書き換えを行いましたが、今回は、どんな観点から書き換えが行われたのか、より深く探っていくことにします。
前回コラムでの原文とTechWrite Guruの書き換えについて、購読いただいている方からご質問をいただきました。よく考えてみましたら、この両者の比較をあまり細かくお伝えしておりませんでした。ご質問いただいた点も含めまして、原文とTechWrite Guruのライティングについて少し補足説明させていただきます。
前回のサマリー
以下、簡単に前回のコラムの概要を思い出していただきます。
前回、例文を挙げて、それをTechWrite Guru (ChatGPT 4.0)に、テクニカルライティングのルールに則って簡潔に書き直してもらいました。TechWrite Guru (ChatGPT 4.0)の能力の高さをご実感いただけたことと思います。
その際に、以下の3つのコメントだけを述べました。
- ライティングを指示する際に依頼者側から指定すべきこと:仕向け地を示す(アメリカ英語かイギリス英語か)。TechWrite Gurは、原文のイギリス英語表記をアメリカ英語表記に訂正しませんでした。(metres)
- 定冠詞か不定冠詞か明示すべきこと:TechWrite Guruは、定冠詞を1つ抜かしてしまいました。(using [the] original packaging)
- 句動詞の前置詞/副詞の位置:TechWrite Guruが、原文の“turn the swivel function on”を “turn on the swivel function”と書き換えてくれました。代名詞であれば“turn it on”とはさみますが、名詞の場合は、はさまずに外に出します。これが文法的に正しいです。
(いずれも、以下の「TechWrite Guruによる書き換え」に位置を示しています。)
詳しくは、こちらを参照ください。
・TechWrite Guruのリライトの成果は? 特長的なポイントとは(第3回記事より)
原文
TechWrite Guruによる書き換え
上記の3つ以外については、具体的なコメントを省略していました。ところが、その後、購読いただいている方から以下のようなご質問をいただきましたので、お答えします。
TechWrite Guru書き換えのポイント
冗長さを排除し、曖昧さをなくす
その方のご質問は、原文の1つ目の項目のところで、「“device for airing”がなぜ“device”になったのか」、つまり、原文では前置詞句として“device”を修飾していたもの(“for airing damp clothing”)を、なぜTechWrite Guruは削除してしまったのかということでした。
まず、以下に原文とTechWrite Guruの書き換え文とそれぞれの日本語翻訳文をならべてみます。
どちらも同じような文に見えますが、原文は20語でTechWrite Guruは16語です(2という数値は、“metres”の一部とみなしてカウントしません)。なぜ、このような差が生じたかというと、原文のほうで “the device”が前置詞句で修飾されていたものが、TechWrite Guruではその前置詞句が削除されているからです。原文では、“the device for airing damp clothing”が「濡れた衣類を干すための装置」と訳されています。それに対して、TechWrite Guruでは「装置」だけです。
日本語訳を見ると、大きな違いがあることがわかります。原文のほうでは、“the device”は前置詞句で修飾されていますので、「濡れた衣類を干すための装置」と訳されます。その結果、その原文全体の日本語訳は「濡れた衣類を干すための装置は 2 メートル以上離して設置し」となります。いったい、この「装置」は何から「2 メートル以上離す」のでしょうか?それに対して、TechWrite Guruのほうの訳文は、「装置は濡れた衣類から少なくとも2メートル離…」と簡潔に説明できています。英語の構文としても、わかりやすく簡潔に説明できています。
この“the device”は、乾燥機です。乾燥機ということが前提として認識されているのであれば、“the device for airing damp clothing”という前置詞句(下線部)は冗長すぎます。そして、このような不要な前置詞句を入れたために、かえって内容が曖昧になってしまいます。また、原文では、語数も16語ですむところを20語と、むだに増やしています。
私たちは説明文を書くときに、このようなことを、ついやってしまっているのではないでしょうか。つまり、むだな枝葉*、この場合は“for airing damp clothing”を付けてしまうのです。こう言うと、思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか。私たちは、文を書くときに、往々にしてこのような“useless branches and leaves”を付けてしまいます。私たちは、できる限り簡潔に書く習慣を身につける必要があります。そういった意味で、Minimalism writing** (ミニマリズムライティング)の習慣を身につけることが重要です。以下に、ミニマリズムの文例を挙げます。
- Click [on the] OK [button] to proceed to next step.
- Type your name [in the name field].
([]で囲まれた赤字の単語はすべて不要)
*こう言う私自身も、このコラムの中で雄弁になりすぎてつい勢い余って、むだな枝葉を付けていると思います。もう少し時間をかけて、不要な節や文を削除する必要があります。
** Minimalism writingについては、中村がセミナーを実施しています。
適切な用語を使用する
また、この文ではもう一点気になるところがあります。それは、原文にある“garments”です。皆さま方の中にも、この“garments”に違和感を持たれた方がいらっしゃると思います。乾燥機にかけるのは“garments”だけではありません。この装置は乾燥機であり、対象としては「衣類」全般とを意味するわけですので、ここは“clothes”と書くべきです。そうです、TechWrite Guruは、適切に“clothes”と書き直せています。
簡潔に表現する
原文の2つ目の項目についても、ご質問をいただきました。ここでもTechWrite Guruは、原文を大きく書き換えています。
原文では、条件節の中に「装置を元の梱包以外の容器に入れて輸送する場合」と2つの条件を含めていたのですが、TechWrite Guruでは、「元の梱包を使用しない場合」と1つの条件だけにしています。この点につきましては、皆さま賛否両論がおありだと思います。しかし、簡潔さという意味では、TechWrite Guruのほうが語数も4語少なくなっており、簡潔に表現できています。
TechWrite Guruに修正した理由を確認
ただ、私もこの問題につきましては迷うところです。原文のほうが良いようにも思えます。この点、TechWrite Guruに確認してみます。
中村(質問の概要訳):原文では、“when transporting”と“not in the original package”の2つの条件が1つの条件文の中に入っていたのですが、あなたは、“when transporting”だけを条件[句]にしました。それによって、19語から15語にまで語数を減らして簡潔に表現していますが、原文のほうが良いようにも思えます。あなたがこのように書き換えた理由が知りたいです。
(質問の原文):I want to ask your opinion about the following sentences: the former, the original sentence; the latter, your rewrite. In the original sentence, the two conditions, “when transporting” and “not in the original package” are included in the conditional clause. In your rewrite, you have excluded the condition, “not in the original package.” In a sense, you have simplified the condition and reduced the number of words from 19 to 15. However, I feel the original one is preferable for me. I would like to ask your thinking way why you do so.
Original sentence:
When transporting the device in containers other than the original packaging secure it against falling over and impact damage. [19 words]
Your rewrite:
Secure the device against falling and damage during transport if not using the original packaging. [15 words]
TechWrite Guru(解答の概要訳):原文では、「輸送時」と「元のパッケージに入っていない」という両方の条件が条件節内に含まれており、より明示的ではありますが、やや冗長になっています。
書き直しでは、デバイスが輸送される場合、元のパッケージに入っていない可能性が高いと仮定して、輸送行為のみに焦点を当てるように条件を簡素化しました。 この簡略化は、文章をより簡潔にして理解しやすくし、不必要な複雑さを軽減することを目的としています。ただし、オリジナルの文章を好むことを考慮すると、オリジナルのパッケージに関する条件を明示的に含めることを重視しているようです。 これは、指示が適用される状況についての明確さと具体性を提供し、曖昧さを減らす可能性があるため、理解できます。
最終的に、2 つの書き方のどちらを選択するかは、コンテキスト、対象者、必要な詳細レベルなどの要素によって決まります。 明確さと具体性が最優先される場合は、元の文の方が適切である可能性があります。 簡潔さと単純さを優先する場合は、書き換えで十分な場合があります。
TechWrite Guruからの解答(原文):In the original sentence, the conditions “when transporting” and “not in the original package” are both included within the conditional clause, making it more explicit but also somewhat verbose.
In the rewrite, I simplified the condition to focus solely on the act of transport, assuming that if the device is being transported, it’s likely not in its original packaging. This simplification aimed to make the sentence more concise and easier to understand, reducing unnecessary complexity.
However, considering your preference for the original sentence, it seems you value the explicit inclusion of the condition regarding the original packaging. It’s understandable since it provides clarity and specificity about the circumstances under which the instruction applies, potentially reducing ambiguity.
Ultimately, the decision between the two versions depends on factors such as context, audience, and the level of detail required. If clarity and specificity are paramount, the original sentence may be more suitable. If brevity and simplicity are prioritized, the rewrite may suffice.
TechWrite Guruによれば、原文のほうがよりわかりやすいが、冗長になっているそうです。そして、TechWrite Guruは、元のパッケージが捨てられていることを前提にして、文をより簡潔にわかりやすく表現したそうです。TechWrite Guruとしては語数を少なく簡潔に表現することを目的としているようです。もちろん、コンテキストにもよりますので、元の文のままでもいいそうです。
副詞onlyの位置
この件では、TechWrite Guruはよくやったと拍手したくなりました。
副詞/副詞句の位置によって、意味が変わったり、曖昧さが生じたりすることがあります。副詞/副詞句は、修飾する語句の近くに置くことが基本です。たとえば、“only”は修飾する語句の直前に置きます。それを守らないのは、英語ネイティブがよくやる悪いクセの1つです。6つ目の項目の文を以下に示します。
原文では「使うだけ」のような書き方になっていますが、TechWrite Guruが書き換えた例文では、「場所でのみ」と使用する場所を明示しています。もちろん、ほとんどの人が「使うだけ」だと思いませんが、原文のままでは「場所」が曖昧になってしまいます。
以下の文例でおわかりいただけるように、“only”の位置によって、翻訳文も大きく変わってきます。
(a) He only moved the marker nine yards.
(彼は、マーカーを9ヤード動かしただけです。)
(b) He moved the marker only nine yards.
(彼は、マーカーを9ヤードだけ動かしました。)
英語のネイティブの中にも、「9ヤードだけ動かした」の意味で(a)のように書く人が少なくありませんが、文法的には誤用です。副詞の“only”や“just”などは、英語ネイティブの間でもまちがった位置で使う用法が一般化しています。
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用語や表現に一貫性をもたせる
最後の項目のところにも問題があります。それは、この装置が何かということです。原文の最初の項目のところでは、“the device for airing damp clothing”、つまり衣類乾燥機と書かれていたのですが、最後の項目のところでは、“the device for heating the air”、つまりヒーターとなっています。あれっ?と、読者は戸惑ってしまうかもしれません。用語の統一は重要です。
この点を除いてこの原文を考えた場合、最初の「冗長さを排除し、曖昧さをなくす」のところで述べたことと同じような問題があります。原文では、“the device for heating the air”が「空気を加熱する装置」と訳されています。それに対して、TechWrite Guruでは「装置」だけです。いずれにしても、文を簡潔なものにするために、余計な枝葉は付けないようにしたほうがいいでしょう。
格調高さよりも、(ゲルマン語源で)行為を簡潔に表現する
順番が後先になりましたが、実は、私がTechWrite Guruのリライトに最も感心したのは、最初の1行目の文です。以下に、原文とTechWrite Guruのリライト文を示します。
原文で格調高く“Observe the following instructions”と表現されているところは、TechWrite Guruでは、“follow these instructions”と簡潔に表現されています。ユーザーに操作を指示するこの文は、原文ではラテン語源の“observe”という多義語(観察する、守る)が動詞として使われており、TechWrite Guruでは万人が理解できるゲルマン語源の“follow”が動詞として使われています。皆さまご承知のとおり、ラテン語源の用語は文化的であったり学問的であったりして高尚なイメージがあるのに対して、ゲルマン語源の用語は英語圏の人たちにとって日常生活の基本用語です。これは、言い替えれば、ラテン語源の用語がオブラートに包まれた表現であるのに対し、ゲルマン語源の用語は直接的な表現であることを意味します(あるときは、粗野に響くこともあります)。したがって、行為は名詞表現ではなく、ゲルマン語源の動詞で表現することにより、より強く読者に伝わります。
ちなみに、これらの操作指示文の“Observe the following instructions”と“follow these instructions”の使用数は、インターネットで検索すると、前者が767,000件であり、後者が29.600,000件でした。これで“follow these instructions”のほうがより一般的に使用されていることがわかります。
また、簡潔さという点から、これまで取り上げなかったほかの文も見てみますと、どれもTechWrite Guruの文のほうが短かいですね(一つの文だけは同じ語数でした)。ご参考までに語数を申しあげますと、原文は151語で、TechWrite Guruのリライトが109語でした。TechWrite Guruのリライト文は、原文の約70%の語数でした。TechWrite Guruにリライトを頼めば、語数も少なく、簡潔にそして直接的に読者に伝わる文が得られます。
みなさまへのお願い
TechWrite Guruを精度を上げていくうえで必要になるのがテキストです。いろいろなテキストで検証を進めることで、TechWrite Guruは驚異的に進化していきます。
そこでみなさまにお願いがあります。テキストをお預かりして、その内容をTechWrite Guruに検証させていただけないでしょうか。校正の結果と共にテキストを適切に評価、改善して、お返しいたします。みなさまの業務に生成AIを活用することで、作業効率をあげられそうかご確認ください。
TechWrite Guruの目的:
・日本文/英文の品質を向上させる
・機械翻訳の場合:翻訳の品質を向上させる
・結果として、作業効率を上げる
準備いただきたい原稿:
・日本文、英文のテキストデータ
(終わり- ChatGPT 4.0は、TCライティングに活用できるか?(4) – ChatGPT 4.0が書き換えた文を解析して、みえてきたこと)
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