ChatGPT 4.0で作成したカスタム生成AI「TechWrite Guru」を使用して、工業英検の過去問をやってみました。(素材は、今から約30年前の第22回(1991年)のものです。)設問には、簡潔な翻訳や、指定文字数内の要約があるほか、ある商品の紹介記事からの取説作成もあります。さらに、設問の解答を題材に、設定する対象読者層に合わせた書き換えにもチャレンジしています。
チャレンジする課題
「第22回(1991年)工業英検」
以下に設問のサマリを紹介します。詳しくはこちらを参照ください。(設問のリンクをクリックで詳細を確認できます。)
Please answer the following tests from 1 to 6 according to the rules of technical writing.(テクニカルライティングのルールに従って、1~6の設問に答えてください。)
- [英日翻訳] Translate the following English sentences into Japanese.(次の英文を日本語に訳しなさい。)
- [取説の作成] The following English text is an article introducing a certain product. Based on this, please create an instruction manual for general users of this device in English.(以下の英文はある商品を紹介する記事である。これに基づき、この装置の一般ユーザー向けに英語の取扱説明書を作成してください。)
- [要約文の作成とリライト] Summarize each of the following English sentences into one sentence and rewrite them into more concise English.(以下の英文をそれぞれ一つの文にまとめ、もっと簡潔な英文に書き直しなさい。)
- [文章の60語以内の要約] Please summarize the following English sentence in 60 words or less.(次の英文を60語以内でまとめてください。)
- [簡潔な文にリライト] Please rewrite the following English sentences into a clear and concise sentence.(以下の英文を簡潔でわかりやすい文に書き直してください。)
- [和文英訳] Translate the following Japanese sentences into English.(次の和文を英語に訳しなさい。)
- [省略] 3つの問題からの選択による和文英訳
設問は以上です。
TechWrite Guruの解答
以下、解答項目を挙げます。詳しくはこちらをご覧ください。(各項目のリンクをクリックで詳細を確認できます。)
- Translation into Japanese:
- Instruction Manual Creation:
- Concise Sentence Rewrites:
- Summary in 60 Words or Less:
- Clear and Concise Sentence:
- Translation into English:
TechWrite Guru解答の検証
TechWrite Guruからの解答が出てきましたので、一つずつ見ていきます。
設問1 – 英日翻訳
まず、最初の和訳の問題です。
なんだか読みにくいですよね。テストの解答ですので、わかりにくくても、答えさえ合っていれば問題は無いのでしょうが、ここはわかりやすい文を書くようにするサイトです。英文だけではなく、日本文もわかりやすく書くべきです。
そこで、「T13スケール」というものを使って、日本文の読みやすさを評価してみることにします。T13スケールは、名古屋大学の佐藤理史先生が開発されている「日本語テキストの難易度を測る」スケールです。測定するレベルは、やさしい「1」=「小学一年生」レベルから「13」=難しい「大学・一般」レベルまであります。
TechWrite Guruが翻訳したものを、この「T13スケール」にかけてみます。そうしたところ、T13スケールで「13」と評価されました。
T13スケール: 13 (大学・一般) →「13」は「大学・一般」レベルであり、最も難しい日本文ということです。
ご参考までに、以下にグーグルでの翻訳も示します。
TechWrite Guruとグーグル翻訳を比較してみると、グーグルのほうがこなれています。しかし、グーグルのほうも読みにくくて、それほど大した差はありません。「T13スケール」では、両方とも「13」=「大学・一般」レベルでした。
この点は私が前もってTechWrite Guruに指示すべきでした。そこで、日本文をわかりやすく書くためのルールを次にいくつか示します。
読みやすいドキュメントを書くことを心がける
難しい技術の研究発表であれば、対象読者はその技術分野の研究者などの関係者ですので、難しい用語や表現を使っても理解してもらえます。しかし、対象読者層が一般の人々であれば話は違ってきます。たとえ、画期的ですばらしい製品を開発できたとしても、その対象読者層にわかりやすく伝えることができなければ、理解してもらえませんし、購入などのアクションを取ってもらえません。
ということで、ドキュメントを書くときは、その対象読者層をしっかり意識して書くことが重要です。とくに、一般読者層ということであれば、以下のことに注意すべきです。
- 対象読者の年齢層 (社会人の幅広い読者層)
まず、対象読者の年齢層を特定することにします。一般的な対象読者層を、アメリカのEighth grade (8年生)あたりだと考えると、日本の中学2年生あたりを対象にした文を書いてもらうようにしたほうがいいですね。 - 漢字の比率
また、読みにくさの主な原因の一つは、漢字の多さです。本文279文字に対して漢字は134でした。134÷279=48%と半分近くありました。ちなみに、グーグルの結果は以下のとおりです。本文289文字に対して漢字は136でした。グーグルも136÷289=47%とTechWrite Guruと同程度ですね。
基本的に読みやすさを考慮した成人対象の雑誌の場合は漢字の比率が20~30%ですので、そのあたりに合わせるようにします。(この漢字の比率の問題には、どの言葉を漢字にするかということもありますが、ここでは触れません。) - 使用する用語(翻訳時の技術的な問題)
やはり、TechWrite Guruにしてもグーグル翻訳にしても、使用する用語の問題が出てきます。除草剤については最低限以下の用語を英日で対訳にする必要があります。- weed control: 除草
- biological herbicide or bioherbicide: バイオ除草剤
- chemical herbicide: 化学除草剤
- kill: 枯らす
- administer: 散布する
対象読者層に合わせた校正指示 – TechWrite GuruとのQ&A
中村(私):Please let us discuss the answers you gave me earlier. Question 1 is to be answered in Japanese, so I will proceed with the discussion in Japanese here.
先ほどお答えいただいた内容について議論したいと思います。設問1は日本語で解答することになっていますので、ここは日本語で進めます。
・対象読者層
設問1の解答は、日本の中学2年生もわかるような日本語で書いてください(アメリカのEighth gradeあたり)。
・漢字の比率
読みやすさを考慮した日本の成人を対象とした雑誌では、漢字の比率が20~30%ですので、使用する漢字は30%ぐらいとしてください。
・使用する用語
英語から日本語に翻訳するときは、以下の日本語を使用してください。
・weed control: 除草
・biological herbicide or bioherbicide: バイオ除草剤
・chemical herbicide: 化学除草剤
・kill: 枯らす
・administer: 散布する
以上です。
TechWrite Guru:設問1の解答を、指定された条件に基づき修正します。
現在、除草のために使われているバイオ除草剤は環境にやさしく、特定の草だけを枯らす特性があるものも多いです。これらは選んだ草だけを攻撃する力を持っていて、作物や他の植物(目的の草に関係ある植物も含む)には手を出さないことがよくあります。これに対して、効果が高いとされる化学除草剤の中には、触れたほぼ全ての植物を枯らしてしまい、化学物質に自然に強い種や、強くされた種だけが生き残るものもあります。さらに、バイオ除草剤の中には一度散布すれば、それ以上何もしなくてもいいものもあります。化学物質は通常、成長の季節に何回も使う必要があります。
T13スケール: 8 (中学2年生)
この解答は、指定された対象読者層である日本の中学2年生が理解しやすいように、そして漢字の使用率を30%程度に抑えて、指示された用語を使用しています。このレベルの文章では、専門的な用語を避け、より簡単な言葉を選び、内容を直接的に説明することを心がけました。
中村:Amazing! Thank you. I will contact you one by one regarding the answers to the rest of the questions.
以下に、この翻訳についての評価を示します。
T13スケールでは8(中学2年)であり、ほぼ問題なく、誰にでもわかるように適切に翻訳されています。以下に、依頼していた項目を検証します。
- 対象読者層
最初の翻訳文に比べると、はるかに読みやすくなっています。これであれば、読者層の幅を広げることができます。最初の文では、「敬体」の文のなかに、「常体」の文が一文混じっていたりしました。しかし、今回は、ほぼパーフェクトです。 - 漢字の比率
漢字の使用も、大きく改善されていました。本文266文字に対して漢字は90でした。90÷266=34%と目標の30%近くまで削減されていました。これが、読みやすくなった理由の一つですね。 - 使用する用語
使用する用語については、私が依頼していたところはすべて反映されていました。ただし、最後の文の主語は「化学物質」となっています。これは英語の主語の“chemicals”を直訳してしまったことによるものです。こんなことにならないように、原文のほうで無用の言い換えをしないで、“chemical herbicides”で統一してほしいものです。重要ですね、キーワードに一貫性を持たせることは!
設問2 – 取説の作成
次に設問2に進みます。
このTechWrite Guruの解答には驚かされました。人間であれば、しかも優秀なテクニカルライターであれば納得できるのですが、リソースになる原文から、これだけの説明内容を導き出せるのですから。たとえば、原文の“A user inserts a strip of up to six negatives into the unit’s film gate and then views them—as positive color images—on a monitor.”が、以下のように操作手順として加工されています。
- Insert Negatives: Open the film gate and insert a strip of up to six negatives.
- Viewing Images: Positives of your negatives will be displayed on the monitor.
これを、すべての情報は原文にあるのだから当たり前だと言ってしまえばそれまでですが、情報を操作手順として適切に並べ替えています。操作説明が、命令形スタイルの中にViewing Imagesと動名詞スタイルになっていたりするのはご愛嬌といったところでしょうか。でも、これも指示すればすむことです。
いずれにしましても、これでわかったことは、マニュアル作成やカタログ作成で、別途、取材した原稿をChatGPTに与えて、簡単な指示をすれば、マニュアルやカタログの原稿を瞬時に作成することができます。(TechWrite Guruの解答はこちら)
設問3以降の検証
設問3 – 要約文の作成
設問3も問題無いようです。
ただし、問2は、”animal fermentation”というキーワードが抜けていましたので、以下のようにしたほうがいいでしょう。
Glycolysis, often called “animal fermentation,” converts sugars to lactic acid, releasing energy, similar to yeast fermentation of sugars to alcohol.
(TechWrite Guruの解答はこちら)
設問4 – 文章の60語以内の要約
設問4は、英文を60語以内に要約する問題でしたが、これも問題ありませんでした。ChatGPT 4.0は、要約が最も得意だという評判ですよね!ご参考までにTechWrite Guruと正解例を以下に並べておきます。ご確認ください。
TechWrite Guru:55語
正解例:59語
設問5 – 簡潔な文にリライト
設問5は、冗長な文を簡潔な文に書き直すという問題でした。以下にTechWrite Guruと正解例の双方を示します。これは、正解例よりもTechWrite Guruのほうがより簡潔にリライトできています。以下の正解例のほうの下線部は再考の必要がありますね。ちなみに、原文のword数は56でした。
設問6 – 和文英訳
設問6は、和文英訳の問題でした。これは日本語原文と、TechWrite Guruと正解例の双方を示します。
どちらのほうが適訳だったか簡単にわかるようにリバース翻訳をしてみます。
ご覧になってすぐにおわかりいただけますように、逐語訳的な意味ではTechWrite Guruのほうが忠実に翻訳できています。だからといって、TechWrite Guruのほうが優れているというわけではありません。細かな点を申しあげると、TechWrite Guruのほうは、最初の英文がちょっとぎこちないですね。そのリバース翻訳文では、ぎこちなさに対応しきれなかったのか、逆接の接続助詞の「が」が順接のように使われています。
リバース翻訳の正解例のほうの最後の文では、「最近では」という副詞が抜けているようですが、これはリバース翻訳時に抜けたものですので、正解例のミスではありません。
まあ全体を概観したところでは、正解例のほうがやや優っているという感じでしょうか。
TechWrite Guruに校正させてみませんか
TechWrite Guruを精度を上げていくうえで必要になるのがテキストです。いろいろなテキストで検証を進めることで、TechWrite Guruは驚異的に進化していきます。
そこでみなさまにお願いがあります。テキストをお預かりして、その内容をTechWrite Guruに検証させていただけないでしょうか。校正の結果と共にテキストを適切に評価、改善して、お返しいたします。みなさまの業務に生成AIを活用することで、作業効率をあげられそうかご確認ください。
TechWrite Guruの目的:
・日本文/英文の品質を向上させる
・機械翻訳の場合:翻訳の品質を向上させる
・結果として、作業効率を上げる
準備いただきたい原稿:
・日本文、英文のテキストデータ
(終わり – ChatGPT 4.0は、TCライティングに活用できるか?(5) – プロンプトで、どこまで修正できるか – 取説作成にもチャレンジ)
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