感触でモノを知る「触知技術」が熟練者のワザの担い手になる
リアルハプティクス®技術を応用した包装製品の非破壊状態判定システムの共同研究
株式会社情報システムエンジニアリング(ISE)、慶應義塾大学ハプティクス研究センター(慶應HRC)、モーションリブ株式会社(モーションリブ)は、2018年から慶應義塾大学が開発した力触覚伝送技術「リアルハプティクス®技術」の社会実装に向けた共同研究をしています。その研究成果として、包装製品の検査をユースケースにした非破壊状態判定システムの開発事例を紹介します。
※本研究は特許第6807589号、第7148938号に基づきます。
触知技術が提供する価値
人の感覚と手加減に頼る作業現場に、作業の可視化と安定化を提供
包装製品の品質検査は、機械化ができず手作業が残る現場がある
パッケージングまで完了した包装製品は外観検査等で不良品をチェックしている。
これだと、中の状態まで検査できない
画像認識、X線、超音波などで内部の状態まで検査できる機器もある。
内部を検査したいけど、機器を導入できない
だから、製造工場だけでなく流通の現場(物流センター・倉庫)で手で触って状態をチェックするところがある。
手で触る検査は…
- 属人的で検査品質がバラつく
- 錯覚やバイアスによって認知のエラーが起きやすい
- バイオレーション(意図的な違反)を防ぎきれない
システム化したいけど…
- 感触の情報は触れただけでは分からない
- 人は軽く押しつぶしたり、揉んだりして感触を確かめる
- 内容物や包装自体を破壊しないように感触の情報を得るには手加減が必要
=人間の手に頼らざるを得ない
包装製品の非破壊状態判定システム
人間が感覚(感触)を通して得ている情報を、力触覚伝送技術であるリアルハプティクス®技術で可視化して現場の課題解決に応用可能か挑戦しました。
包装製品の感触をデータとして可視化することに成功しました。
アルバイトやパート従業員など流動的な作業者が多い検査現場の属人性排除と品質均一化に貢献できる技術です。
技術解説
リアルハプティクス技術®とは
操作器(マスター)と作業装置(スレーブ)で構成される機械の制御において、力触覚を伝送する技術です。慶應義塾大学が開発し、大学発ベンチャーのモーションリブ株式会社が実装しました。
人間が柔らかいものを掴んだ瞬間、無意識に(反射的に)手加減してものを潰すことなく持つことができるように、人間が経験を通じて頭を使わずとも体で覚えた力の使い方をロボットにも実装できるリアルハプティクス®技術によって接触対象の感触に対応する物理量である力触覚刺激量を取得すれば、アクチュエーターの制御を通じて接触対象の性質が手に取るように分かる=触知技術と命名しました。
リアルハプティクス、AbcCoreはモーションリブ株式会社の登録商標です。
力触覚とは
力触覚は、接触対象に働きかけを行ったときに接触対象から受け取る感触です。現場で作業者が製品を揉んだりするのは、力触覚を発生させるための動作です。
視覚や聴覚と同じように、力触覚もその刺激量(強度)を量ることで感覚の定量化が表現できます。
視覚 | 聴覚 | 触覚 | |
---|---|---|---|
感覚 | まぶしい、暗い | うるさい、静かだ | ぷるぷる、カチコチ |
刺激量 | lm(ルーメン、光の強度) | dB(デシベル、音の強度) | hu(力触覚の強度)※ |
- K.Ohnishi, Y.Saito, “Quantification of Force/Tactile Sensation” IEEJ Journal of Industry Applications, 12巻,2 号, pp125-130, 2023.
共同研究の実績
共同研究体制
共同研究実績
田中 一行, 関 雅代, 黒田 聡, 大西 公平, 溝口 貴弘(2023)「リアルハプティクス技術を用いた力触覚刺激量の計測に基づく包装食品の状態評価」,第66回自動制御連合講演会
田中 一行, 関 雅代, 黒田 聡, 大西 公平, 溝口 貴弘(2022)「リアルハプティクス技術を用いた力触覚刺激量の解析による袋状食品包装のピンホール判定手法の検証」,第65回自動制御連合講演会
田中 一行, 関 雅代, 黒田 聡, 大西 公平, 溝口 貴弘(2021)「袋状食品包装の空気漏れ検査システムの性能評価」,第64回自動制御連合講演会
田中 一行, 関 雅代, 黒田 聡, 大西 公平, 溝口 貴弘(2020)「リアルハプティクス技術と複合現実技術を用いた袋状食品包装の空気漏れ検査システムの開発」,第63回自動制御連合講演会