執筆作業に生成AIを活用できないか検討します。今回は、執筆した文書を「校正ルールに基づいた校正」にチャレンジします。生成AIを使用して、表記ガイドライン等に基づいた修正ができれば、執筆時にはガイドラインをあまり意識しなかったとしても、ガイドラインに沿った文書をストレスなく簡単に作成できるようになります。
検証に使用した生成AIはGoogle Gemini Advanced(有料版)です。Gemini Advancedには、生成AIをカスタムできるGemという名前のGoogleの生成AI Gemniをカスタムする機能があります。これを利用して、校正指示やルールを入力して試してみます。
(注)Gemマネージャーは、以前は有料プランの「Gemini Advanced」加入者のみが利用できる機能でしたが、2025年3月14日以降、無料版のGeminiからもアクセス可能とのことです。詳しくは、Geminiのページでご確認ください。
Gemの作成（Geminiのカスタマイズ）
Google Geminiには、自分が作成したカスタム指示に従って挙動するようにできる、Gemという機能があります。（Gemの概要と基本的な動作については前回記事を参考にしてください。）この機能を使用してGeminiをカスタマイズします。
Gemへのカスタム指示では、半角カナ→全角カナのような基本的な変換ルールや、文章全体の制約（例: 1文50文字以内）を指定し、具体的な単語や表現の置換リスト（例: 『及び』→『および』 ） は、校正ルールとしてGemがチャットで参照する『知識』機能を利用して読み込ませます。
カスタム指示を入力する
新たにGemを作るときには、GeminiのメニューにあるGemマネージャーの中から「Gemを作成」を選択します。まず、Gemの名前とカスタム指示を入力します。
Gemの名前：校正ルールに基づく校正
カスタム指示の内容：カスタム指示には、以下の内容を記述しました。
校正ルール：
a) 半角カタカナは、全角カタカナに変換する。
b) 丸数字は、数字に変換する。
c) 英数字は、半角に変換する。
d) ら抜き言葉は修正する。
e) 使役形の文があったときには、文の意味を変えずに修正してください。
f) すべての各文は最大50文字とします。それを超える場合は適切な箇所で区切って複数の文に修正してください。
自分が設定したい指示内容だけを書けば、そこからは生成AIを使って必要な情報の追加や修正ができます。結果を見ながら、必要に応じて修正していきます。今回のカスタム指示内容も、まずはベースとなる内容を記述した後、生成AIで修正しながら作成しています。
校正ルールを作成する
以下のような、誤り、正しい表記、理由、対象を表記する表を作成し、csvファイルとして保存します。今回は、50個程度のルールを作成しました。（詳細は、資料１を参照ください。）
校正ルールを入力する
GeminiのGemには、チャットで参照するファイルを指定できる「知識」と呼ばれる機能があります。これを使って、作成した校正ルールを読み込ませます。
「知識」メニューにある「＋」マークを押すと、ファイル選択できますので、作成した校正ルールを保存したcsvファイルを選択して、アップロードします。
アップロード後、Gemの画面、右上に「更新」ボタンがあるので、これをクリックして更新します。これで、Gem「校正ルールに基づいた校正」が完成です。利用するときは、Gemマネージャーメニューに作成したGemが表示されますので選択して利用します。
検証用文書の作成
検証用の文書作成にもGeminiを使用し、修正しながら作成しました。以下のような社内向けの案内文を検証対象とします。
検証用文書：
検証結果
校正を実行します。
検証用の文書を校正して、修正文を示してください。
ほぼ成功だが、50文字以内の文への分割に失敗
カスタム指示や校正ルールの指定に従ってほぼ修正できましたが、50文字を越える文が残ってしまいました。接続詞が多く、文意を保ったまま分割するのが難しかったのかもしれません。また、他の指示（表記修正など）を優先した結果、文字数制限の処理が後回しになったのかもしれません。
該当箇所：
今回の旅行では心と体の健康だけでなく、普段はなかなか会話ができない方など参加者同士の交流も深めることができますので、ぜひ、ご参加ください。（69文字）
改めて修正を指示します。
50文字を越えている文がありますので、修正して、修正文を示してください。
50文字を超える文も修正され、修正文全体を入手できました。
該当箇所：
今回の旅行では、心と体の健康だけでなく、参加者同士の交流も深めることができます。（40文字）
普段はなかなか会話ができない方とも交流できますので、ぜひご参加ください。（36文字）
なぜ修正が漏れたのかは、使い方に工夫がいるところかもしれませんが、指示を与えるだけで修正でき、修正文が得られるのは便利に感じました。
50文字を超える文はなぜそのままだったのか
AIの挙動は常に予測可能とは限りませんが、ツールをよりうまく活用するためのヒントを探ってみます。今回の検証では、最初の指示で50文字を超える文の修正が漏れましたが、追加の個別指示では修正されました。このことから、Gemini自体には文を分割する能力があることが確認できます。
では、なぜ最初の指示ではうまくいかなかったのでしょうか。 考えられる理由の一つは、指示したタスクの性質の違いです。50文字以内への分割は、単なる単語の置き換えではなく、文全体の意味を解釈し、自然な形で複数の文を「生成」する作業です。一方、CSVで指定した他の校正ルール（例： 「及び」→「および」）は、特定のパターンに合致する箇所を機械的に「表記変換」する作業に近いと言えます。
本来であれば、文字数制限のために「文が生成」された後、その新しい文に対して「表記変換」のルールが適用されるのが理想的な順序かもしれません。この記事を書くための検証でも、50文字以内への分割を確実に実行させようとカスタム指示の書き方を様々に変えて試行錯誤を繰り返しましたが、安定して意図通りに動作させることは困難でした。どうやら、現在のカスタム指示では、これらの処理の優先順位を明示的に指定する機能が実装されていないようです。 そのため、AIが内部でどのように処理を進めたのか、あるいは性質の異なる複数の指示を同時に実行しようとして混乱した可能性も考えられます。
参考として、「文の生成」に特化した別のGemを使うとどうなるか見てみます。以前作成した「AI翻訳しやすい日本文作成」Gemで、今回の「50文字制限適用後の」文章を変換してみました。（変換された文は資料２を参照。）結果、接続詞や慣用表現が整理され、非常にシンプルな文章に変換されました。50文字を超えていた元の箇所が、以下のようにさらに短い3文に分割されています。
該当箇所：
この旅行では、心と体の健康だけでなく、参加者同士の交流も深めることができます。（39文字）
普段、会話ができない方とも交流できます。（20文字）
交流会だけの参加も可能です。（14文字）
この「AI翻訳しやすい日本文作成」Gemによる変換結果を見ると、元の文章の構造自体が大きく変更され、結果的に、最初に設定した表記揺れなどの「表記変換」ルールが適用される余地はほとんどなくなりました。
これらの結果を踏まえると、性質の異なる指示となる 「表記変換」と「文の生成」 を一つのGemで同時に、かつ高い精度で実行させるのは難しいのかもしれません。「表記揺れを直すGem」と「文章を短く分かりやすくするGem」のように、目的ごとにタスクを分割してGemを使い分けることが、現状ではAIをうまく使いこなすコツと言えそうです。
まとめ
今回は、校正ルールに基づく校正にチャレンジしてみましたが、ほぼ意図通りに変換できることを確認できました。原稿作成時に自分流に記述した文章を、ガイドラインの細かいルールを熟知していなくても、ガイドラインに沿って書き換える作業に生成AIを使用できそうです。表記をガイドラインに合わせたいのか、冗長な表現を平易な表現に書き換えたいのか、目的にあわせて、生成AIを使い分けることで、目的に合わせた修正ができそうです。とすると、より多くの時間を執筆することだけに、振り向けられそうです。一度、試してみるのはいかがですか。
この記事へのご感想はこちらまでお願いします。
資料
資料１：校正ルール.csv
資料1:校正ルール.csv
誤り,正,理由,対象
お勧め,おすすめ,表記ルール,全文書
お奨め,おすすめ,表記ルール,全文書
及び,および,表記ルール,全文書
且つ,かつ,表記ルール,全文書
更に,さらに,表記ルール,全文書
但し,ただし,表記ルール,全文書
尚,なお,表記ルール,全文書
若しくは,もしくは,表記ルール,全文書
因みに,ちなみに,表記ルール,全文書
並びに,ならびに,表記ルール,全文書
又,また,表記ルール,全文書
従って,したがって,表記ルール,全文書
誠に,まことに,表記ルール,全文書
未だに,いまだに,表記ルール,全文書
全て,すべて,表記ルール,全文書
上で,うえで,表記ルール,全文書
是非,ぜひ,表記ルール,全文書
勿論,もちろん,表記ルール,全文書
早速,さっそく,表記ルール,全文書
或る,ある,表記ルール,全文書
此の,この,表記ルール,全文書
其の,その,表記ルール,全文書
御覧,ご覧,表記ルール,全文書
御食事,お食事,表記ルール,全文書
御参加,ご参加,表記ルール,全文書
限り,かぎり,表記ルール,全文書
毎,ごと,表記ルール,全文書
箇所,か所,表記ルール,全文書
カ所,か所,表記ルール,全文書
1カ月,1か月,表記ルール,全文書
1ケ月,1か月,表記ルール,全文書
問い合わせ,問合せ,表記ルール,全文書
組み合わせ,組合せ,表記ルール,全文書
申し込み,申込み,表記ルール,全文書
取り扱い,取扱い,表記ルール,全文書
受け取り,受取り,表記ルール,全文書
取り組み,取組み,表記ルール,全文書
引き続き,引続き,表記ルール,全文書
ホームページ,ウェブサイト,表記ルール,全文書
HP,ウェブサイト,表記ルール,全文書
インターネット,ウェブ,表記ルール,全文書
ネット,ウェブ,表記ルール,全文書
Web,ウェブ,表記ルール,全文書
WEB,ウェブ,表記ルール,全文書
EV,イベント,表記ルール,全文書
TEL,電話番号,表記ルール,全文書
e-mail,メールアドレス,表記ルール,全文書
資料２：AI翻訳しやすい日本文への修正
カスタム指示、校正ルールで修正された文を、以前作成したGem「AI翻訳しやすい日本文作成」で変換しました。
修正点:
- 「日頃の疲れを癒やし、心身ともにリフレッシュしませんか。」を「日頃の疲れを癒やし、心身をリフレッシュしませんか。」に変更しました。「心身ともに」は冗長な表現のため削除しました。
- 「雄大な自然と美味しい食の宝庫」を「雄大な自然と美味しい食べ物が豊富」に変更しました。「食の宝庫」は、翻訳が難しい慣用的な表現のため、より具体的な表現に変更しました。
- 「健康のためのウォーキングやヨガなどの運動プログラムがおすすめです。」を「健康のための運動プログラムをおすすめします。例えば、ウォーキングやヨガなどです。」に変更しました。文を分割し、「例えば」を用いて具体例を提示することで、より明確にしました。
- 「温泉でゆっくり体を温め、日頃の疲れを癒やしてください。」を「温泉でゆっくり体を温め、疲れを癒やしてください。」に変更しました。「日頃の」を削除しました。
- 「社長および役員も参加する交流会を開催します。」を「社長と役員も参加する交流会を開催します。」に変更しました。「および」を「と」に変更しました。
- 「美味しい北海道の味覚を堪能しながら、お食事を楽しんでいただきたいと存じます。」を「北海道の美味しい食事を楽しめます。」に変更しました。「味覚を堪能しながら、お食事を楽しんでいただきたいと存じます。」は、翻訳が難しい慣用的な表現のため、より平易な表現に変更しました。
- 「ちなみに、交流会で利用するレストランは、予約を取ることも難しい人気店です。」を「交流会で利用するレストランは、人気店のため、予約が難しいです。」に変更しました。「ちなみに」を削除し、文を短くしました。
- 「普段はなかなか会話ができない方とも交流できますので、ぜひご参加ください。もちろん、交流会だけの参加も歓迎です。」を「普段、会話ができない方とも交流できます。交流会だけの参加も可能です。」に変更しました。「はなかなか」「ので、ぜひご参加ください。」「もちろん、～も歓迎です。」を削除し、文を短くしました。
- 「問合せ」の情報を箇条書きに変更し、情報を整理しました。
＜終わりー執筆時の生成AI活用：校正ルールに基づいた校正にチャレンジ＞
関連記事のご案内
-
執筆時の生成AI活用：自分流に書いた後で用語表記ルールに沿って校正する ～ GemでGoogle Geminiをカスタマイズ ～
-
執筆時の生成AI活用：校正ルールに基づいた校正にチャレンジ ～ GemでGoogle Geminiをカスタマイズ ～
-
生成AIへの校正指示内容とカスタム化 – AI翻訳しやすい日本文を簡単につくる方法を探る（３）
-
取説にありそうな日本文は、どのようにチェックをしてくれるか – AI翻訳しやすい日本文を簡単につくる方法を探る（２）
-
AI翻訳しやすい日本文を簡単につくる方法を探る
-
AI翻訳から意図した結果を得るために簡単にできるワンポイント(７) – コンテキスト情報を活用する
