MT翻訳を外部文書に使用するときのご注意

MT翻訳を外部文書に使用するときに注意すべき点をまとめました。

動詞を造語しない

 動詞を複合的に合成して一般的ではない動詞をつくると機械翻訳は対応できずに、適切に翻訳できなくなることがあります。以下の例では、「記録保管する」という辞書にない動詞を使っているので、1の例のように、「保管する」を“storage”と名詞で表現したりします。
 以下、大手のMT翻訳各社4社のツールを使用して調べてみました。

原文:その結果を記録保管する
1: The results are recorded and storage.
A: Keep a record of the results.
B: The result is recorded and stored.
C: Record the results.
D: The results shall be recorded and stored.

 AからDまでは、いちおう対応できていますが、MTによって少しずつ表現が異なります。BとDは、受動態です。Dは、Bと類似したスタイルですが、“shall”が使われており、強制的な意味になりますので、適切ではありません。
 そこで、以下のように2つの行為の間に「読点」を入れて、2つの行為として分けて書き直してみました。

原文:その結果を記録し、保管する。
A: Record and store the results.
B: The results are recorded and stored.
C: Record and store the results.
D: The results shall be recorded and kept on file.

 そうすると、AとCのように命令形になったり、BとDのように受動態のままであったりしました。まあ、いずれも問題ありませんが、Dは“shall”がそのまま残ってしまいました。

抽象的な接尾辞を付けて言葉をわかりにくくしない

 熟語に「性」や「感」、「的」、「上」などの接尾辞を付けて、~性、~感、~的、~上として、もったいぶった書き方をする人がいたりします。ところが、以下の例のように「保存性」とか「更新性」とか「遂行感」といった見慣れない表現を複合語的に使用すると、MTはついていけなくなります。「遂行・達成感がある」のAとBは共通ですが、適切に翻訳できていません。そのほかは、MTによってすべてばらばらです。
注)以下、文頭の大文字/小文字の別と文末のピリオドの有無はMT結果のとおりに転記しています。

原文:保存・更新性が高い 
A: Easy to save and update
B: Highly conserved and updatable
C: High storage and updating.
D: Highly preserved and updated

原文:遂行・達成感がある
A: have a sense of accomplishment and accomplishment
B: have a sense of accomplishment and accomplishment
C: Have a sense of accomplishment
D: Performances and accomplishments.

 これは、MTが内容を理解できていないというよりも、実は、これらの用語が使用された日本文を誰も適切に理解できないのではないでしょうか。
 ですから、それぞれを、たとえば、以下のように意味が伝わるように書き直すべきです。

原文:保存・更新性が高い → 保存できて、更新がしやすい
A: Saveable and easy to update
B: Easy to save and update
C: Can be saved and easy to update
D: Easy to save and update.

原文:遂行・達成感がある → 成し遂げたという満足感がある(「遂行」も「達成」も同義)
A: I feel satisfied that I have accomplished
B: have a sense of fulfillment
C: There is a sense of satisfaction that you have accomplished
D: There is a sense of satisfaction in having accomplished

ナカグロ(・)やスラッシュ(/)を安易に使わない

 上記で、「保存・更新性」のようなナカグロ使用例が出てきましたが、このナカグロの解釈によって意味が異なってきます。つまり、「保存と更新性」なのか「保存性と更新性」なのかという違いが出てきます。この違いは、前文までのコンテキストで理解できる場合もありますが、そのほとんどの場合、その文を書いた人にしかわかりません。ですので、ナカグロ(・)は安易に使用しないようにしましょう。以下に例示します:

原文:乾燥・保管
→ Dry storage (乾燥した状態で保管)
→ Dry and Storage  (乾燥と保管)

原文:洗浄・保存条件
→ cleaning and storage condition (洗浄と保存条件)
→ conditions of cleaning and storage (洗浄と保存の条件)

 これは「保存/更新性」とスラッシュを使用した場合も同様ですが、スラッシュのほうがより複雑になります。つまり、「保存と更新性」なのか「保存性と更新性」なのか(並列)という違い以外に、「保存または更新性」なのか「保存性または更新性」なのか(選択)なのかという問題が加わるからです。

 スラッシュ(/)の使用によって、内容がより一層紛らわしくなる例を以下でご紹介します。

スラッシュ(/)が区切る範囲

 スラッシュは“and”という「並列」の意味でも“or”という「選択」の意味でも使用されます。一般的には、「並列」の意味で使用されることが多いようですが、スラッシュを安易に使うと、以下のような問題も生じます。以下の例では、区切り記号としてスラッシュ以外に、「読点」が使われています。

原文:分解可能なハンドル/ボックス部、穴や凹み/空洞でない

 この場合、「読点」はスラッシュの上位の区切りとして使われているのか、下位の区切りとして使われているのかがわかりません。つまり:
「分解可能なハンドル/ボックス部」、「穴や凹み/空洞でない」なのか、
「分解可能なハンドル」/「ボックス部、穴や凹み」/「空洞でない」のかがわかりません。

そこで、上記の4種類のMTを使って、機械翻訳ではどう翻訳されるのかを調べてみました。結果は、上記の私の分け方とは異なったものでした。

A: No detachable handle/box, no holes or dents/cavities
 「分解可能なハンドル/ボックス部」、「穴や凹み/空洞」でない
B: Not degradable handles/boxes, holes or hollows/cavities
 「分解可能なハンドル/ボックス部」、「穴」または「凹み/空洞」でない
C: Disassembleable handle/box part, no holes or dents/cavities
 「分解可能なハンドル/ボックス部」、「穴や凹み/空洞」でない
D: Disassembled handle/box section, not a hole or recess/cavity
 「分解可能なハンドル/ボックス部」、「穴や凹み/空洞」でない

 まず、AとBでは、文末の否定表現「でない」が文全体にかかるように解釈しています。そして、AもBも、「読点」のほうがスラッシュよりも上位の区切りとして使われています。また、Bでは、「分解可能なハンドル/ボックス部」か「穴」か「凹み/空洞」のように“a or b or c”と3つに区分しています。
 CとDでは、「読点」が上位の区切りとして使われていて、文末の否定表現「でない」は「読点」以降の後半部分にかかっています。CとDは同様に解釈しています。

 このことから理解できるのは、一般的にMTでは、「読点」はスラッシュの上位の区切りと解釈される(らしい)ということです。しかし、この文の筆者が、「読点」をスラッシュの下位の区切りとして使っているのであれば、MTはいずれも誤訳したことになります。
 なお、この4種類のMTはいずれも、日本語で使用されていた全角のスラッシュ(/)を、英文では半角のスラッシュ(/)に変更していました。私が最近使用したMTでは、英文に翻訳された後も全角のスラッシュ(/)のままになっているものがありました。この点、ご注意ください。

全角の英数字や記号を使用しない

 テキストデータを、できる限り世界共通で使用したいのであれば、日本文であっても、全角の英数字や記号(全角スペースも含めて)は使用しないことをおすすめします。日本文だからといって、全角の英数字を使用すれば、世界市場向けに、それらをすべて半角英数に置き換える必要があります。また、上記でご説明したように、全角のままのスラッシュが残ったりします。このスラッシュと同様に問題になりそうなのが、「」や「~」です。米印(※)は日本独自のものであり、波線(~)は英語では交流電源の記号になります。ご注意ください。
 また、全角の問題からは離れますが、原文のテキスト内にある、下線や太字や斜体、そして上付き文字/下付き文字といった文字修飾の情報は、すべて翻訳時に失われます。この点もご配慮いただく必要があります。 

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