
若かったころ—そうですね、メーカーに就職して数年たったころでしょうか。だとすれば今から40年ぐらい前の古い話なので恐縮ですが—1冊の洋書と出会って、その洋書にすごく感心したことがありました。その本のタイトルはA Whack on the Side of the Head: How You Can Be More Creativeです。この本のタイトルを日本語にMT翻訳すると、「頭の横を叩く: どうすればもっとクリエイティブになれるか」というものです。「頭の横をたたく」なんて意味がわかりませんが、これは「頭に気づきを与える」というような意味ですので、「頭をポンと一発」ってな感じなのでしょうか。
この洋書のどういうところに感心したかというと、そのサブタイトルにありますように、「どうしたらクリエイティブな発想ができるか」が理解できたからです。私たちは生まれてから知らず知らずのうち社会生活に適応できるようにするために、自己規制を重ねていきます。私たちは意識するしないにかかわらず、日常生活を無難にすごすために自分を一定の社会的な規制の中にあてはめていきます。いわゆる「常識」を身につけていくわけです。そうすることで「良い大人」に成長することができます。しかし、「良い大人」に成長できたからといって喜んでばかりはいられません。というのは、「常識」によってある一定の社会的評価は得られるでしょうが、反対に心に鍵をかけてしまって(メンタルロック)、自由な発想や思考をすべて規制して閉じ込めてしまうからです。こういった状態では新しいアイデアはなかなか生まれてくるものではありません。クリエイティブなものの考え方をしたいときは、このメンタルロックを外してあげる必要があります。著者であるRoger von Oechは、クリエイティブな発想をするために、以下に挙げる10のメンタルロックを外すことを提案しています。
- The Right Answer.
- That’s Not Logical.
- Follow the Rules.
- Be Practical.
- Avoid Ambiguity.
- To Err Is Wrong.
- Play Is Frivolous.
- That’s Not My Area.
- Don’t Be Foolish.
- I’m Not Creative.
私たちの自由な発想を阻害するメンタルロックには、いろいろな種類があるのですね。ちなみに、この10のメンタルロックを日本語に訳するとしたらどうなるでしょうか。MT翻訳してみました。翻訳のできはいかがでしょうか。
メンタルロック MT翻訳
- The Right Answer. 正解。
- That’s Not Logical. それは論理的ではありません。
- Follow the Rules. ルールに従う。
- Be Practical. 実用的であること。
- Avoid Ambiguity. 曖昧さを避ける。
- To Err Is Wrong. 過ちを犯すことは間違っている。
- Play Is Frivolous. 遊びは軽薄です。
- That’s Not My Area. それは私の区域でない。
- Don’t Be Foolish. ばかなことを言うな。
- I’m Not Creative. クリエイティブじゃない。
MT翻訳すると、英語の原文にも問題があるのですが、すべてのメンタルロックはそれぞれ異なったスタイルになってしまいました。まず、「常体」と「敬体」がばらばらです。体言止めも混じっています。MTが、このような細かなスタイルを、状況(コンテキスト)によって統一できるといいのですが。現状では、なかなかそこまではできていません。
翻訳した日本語の表現スタイルを統一してみました。
- The Right Answer. 正しい答えは1つだけです。
- That’s Not Logical. 論理的でないものはだめです。
- Follow the Rules. 規則は守りましょう。
- Be Practical. 夢みたいな話はやめて。大人でしょう。
- Avoid Ambiguity. 曖昧ではいけません。
- To Err Is Wrong. 間違えるのはだめです。
- Play Is Frivolous. 遊ぶのは不まじめです。
- That’s Not My Area. それは私の専門分野ではありません。
- Don’t Be Foolish. ばかなことはしてはいけません。
- I’m Not Creative. 自分はクリエイティブではないのでね。
(A Whack on The Side of The Head: Roger von Oech)
1番目のメンタルロックは、「正解はただ一つ」というものです。これは日本の学校教育の悪弊といえます。子供たちの自由な発想を閉じ込めてしまう悪いルールです。たとえば、小学校の漢字の問題で、□の枡の中に適切な漢字を入れるというものがありました。「□山を楽しむ」に入る漢字一字を入れるとしたら「登」を入れて「登山を楽しむ」とするのが正解なのでしょうが、富山県に住む小学生は「富」を入れて「富山を楽しむ」として不正解になったそうです。このような笑うに笑えないケースで、不正解とした担任がどういった人か想像できます。このような担任に教わる子供たちのことを考えると、かわいそうで仕方がありません。
ちなみに、若いころから、私はこの10のメンタルロックを外すことで(自分としては)かなりクリエイティブになれたと思います。しかし、いろいろな常識を拒否してしまうものですから、人当たりが悪く、上司の覚えも悪くなりましたので、サラリーマンとしては失敗してしまいました。😫 皆さまもご注意ください。
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