機械翻訳を使って翻訳していると、何の脈絡もなしに主語が入ってきたり、その主語がほかの人称の主語と入れ替わったりします。なぜこんなことが生じるのでしょうか?「より一般的な」文章を使って、AI翻訳の問題点を実際にAI翻訳機で検証していきます。
1文章中の主語について
~翻訳品質を考える前に – 見落としがちなこと~
日本語では、主語が明快に示されてないことが多々あり、主語を省略して書かれることがあるためです。逆に、主語が文の前後関係で容易に判断できるときに主語を入れると、日本文としてぎこちない文になったりします。それに対して論理的な言語である英語では主語は必要ですので、機械翻訳では、主語が明示されていない文に便宜的に主語が必要になり、主語が現れることになります。
日本文では、なぜ主語が省略されるのでしょうか。日本語が他者と視点を共有する言語だからなのでしょうか。それはさておき、自分が読んで理解するためだけのものでしたら、別に気にしなくてもいいのですが、せっかく翻訳するわけですので、主語を統一したいですよね。
さて、例題を使って検証します。
例題: わかりやすい⽂を書けば、翻訳しやすくなりますか︖
AI翻訳(JA→EN): Would it be easier to translate if I wrote understandable sentences?
AI翻訳(EN→JA): わかりやすい文章を書くと翻訳しやすくなりますか?
英文で主語がどうなるのかまったく意識していなかったのですが、この例のように唐突に「I」という主語が入ると、英語では主語が省略できないのだと改めて思い知らされます。この質問の内容からすると、この翻訳のように「I」という主語でもしっくりきます。それは、トラブルシューティングでの質問のように、質問者の視点で書かれていることを考えれば自然だからです。ただ、マニュアルなどの操作説明中心の文では「you」が中心になりますので、文脈的に近いところで「you」と「I」が混在していたら不自然になります。そういう場合は、原文である日本文を書き換えることで、「I」が翻訳されないようにします。
原文を以下のように書き換えてみました。
修正版: 内容がわかりやすい⽂であれば、翻訳しやすくなりますか︖
AI翻訳(JA→EN): Would it be easier to translate if the contents were easy to understand?
AI翻訳(EN→JA): 内容がわかりやすい方が翻訳しやすいでしょうか?
原文の変更で、「I」が翻訳されなくなったことが確認できます。いずれにしても、一貫して一つの主語を使い続けることが、機械翻訳での重要な課題になりますね。機械翻訳の機能で、この問題に対応できるないのでしょうか?
<参考>
・オンプレミスで活用するAI翻訳 SYSTRAN Pure Neural Server
FAQ – 一貫してyouを主語にした「2人称」で翻訳するための方法はありますか?
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