ChatGPTは、日本語や英語の質問で、回答内容は同じなのか

 前回、テクニカルライティングについてChatGPTに日本語で質問しました。「文章表現」の回答で気になることがありましたので、この点について掘り下げ、説明する予定でした。ただその前に、ChatGPTが、日本語と英語でデータベースを共有しているのかどうか気になりました。ChatGPTが日本語で回答した内容が、英語でも同様の回答になるかということです。今回は、このことについて確認できた内容をお伝えします。その上で、次回以降、「文章表現」での回答について確認できたことをお伝えさせてください(*本記事は、ChatGPT 3.5を使用して確認しております)。

早速、そのことをChatGPTに質問してみました。それに対して、ChatGPTは、

■ChatGPTの回答
ChatGPTは、・・・トレーニング中に多言語のテキストデータを使用して学習されたモデルで、そのモデル内に多言語の情報がエンコードされています。複数の言語でテキスト入力を受け付け、その入力をモデル内で理解し、適切な言語で応答を生成します。このプロセスは、言語翻訳や言語特有のデータベースを使わずに行われます。

と答えてくれました。
ということは、ChatGPTは人間と同様に、各言語で発話する前に「メタ言語」を持っているということです。これは、Steven Pinker言うところのmentalese (心的言語)ですね。びっくりです。

目次

ChatGPTに日本語と同じ内容を、英語で質問してみたら

そこで、日本語でテクニカルライティングについて質問した内容を、英語に替えてChatGPTに聞いてみました。はたして、同じような回答を得られたでしょうか(この回答を採取した時期は、日本語とほぼ同時期です)。ChatGPTの回答に、最低限の日本語訳と解説を付けます。

ChatGPTへの質問
Q:There is an English writing method called Technical Writing. Could you please tell me all the specific methods? I appreciate your help. (テクニカルライティングという英文のライティング手法がありますよね。その具体的な手法をすべて教えてくださいませんか。よろしくお願いします。)

■ChatGPTの回答
Technical writing is a specialized form of writing that is used to communicate information in a clear, concise, and structured manner, primarily in technical and scientific fields. While there isn’t a single specific method for technical writing, there are several principles and guidelines that technical writers typically follow to ensure their documents are effective and user-friendly. (テクニカルライティングは、技術文書を、“a clear, concise, and structured manner”で書くものだと最初に述べています。そして、書き方は人によって異なると言っています。)

Here are some key methods and considerations in technical writing:
(以下に、テクニカルライティングのための重要な方法と考慮すべきことを述べるそうです。)

Audience Analysis (ターゲットオーディエンスの分析): Understand your target audience, their knowledge level, and their needs. Tailor your writing to the audience to ensure that the information is accessible and relevant to them.

日本語では「ターゲットオーディエンスの理解」でした。これは互いに同じようなものですね。
ところで、日本語で最初に挙げられていた「クリアな目的設定」は見当たりません。最初に目的を明確にすることが必要です。これはテクニカルライティングの大前提となるものです。

Clear and Concise Language (明快で簡潔な言語): Use plain and simple language. Avoid jargon and technical terms when they aren’t necessary. Explain complex concepts when required, but do so clearly and concisely.

日本語では「シンプルな文体と言葉の選択」でした。まあ、同じような内容でしょう。

Logical Organization (論理的な構成): Structure your document logically. Use headings, subheadings, and lists to break up the text and make it easier to scan. Use a clear and consistent formatting style.

日本語では「構造化された文書」だったものが、「論理的な構成」に置き換わっています。「論理性」と「構造化」では意味が異なります。両方とも必要ですが、「構造化」は、直接、テクニカルライティングとは関係がありません。

Use of Graphics (図表の使用): Incorporate visuals such as diagrams, charts, and illustrations to supplement the text and make complex concepts easier to understand. Ensure that these visuals are labeled and referenced appropriately.

これは日本語と同様ですね。日本語よりも、より具体的です。ただし、これは狭義でのテクニカルライティングとは、直接、関係がありません。

User-Centered Approach (ユーザー中心のアプローチ): Always consider the needs and perspective of the end user. What information do they need? How will they use the document? Address their questions and concerns.

これは、日本語には無かった項目です。“User-Centered Approach”という用語はユーザビリティー設計のものですが、テクニカルライティングでは「“you-attitude”で書く」、つまり読者を対象に2人称の“you”を主語にして書くことになっていますので、これはOKですね。

Emphasis on Clarity (明瞭さを重視): Be precise and unambiguous in your writing. Use active voice and avoid passive voice constructions. Clearly state the purpose and the main message of the document.

これも、日本語には無かった項目です。能動態を使用して、ドキュメントの目的や伝えたいことを具体的に、明快に述べます。これは、テクニカルライティングの鉄則ですね。

Technical Accuracy (技術的に精度を高く): Ensure that the information presented is accurate and up-to-date. Verify facts, figures, and technical details. Cite sources when necessary.

これも同様です。事実や数値、技術的な詳細を述べて、必要に応じて出典を記載します。

Revision and Proofreading (改訂と校正): Technical documents should be free from errors, including spelling, grammar, and formatting issues. Proofread your work and consider seeking input from others.

これも、日本語には無かったものですが、テクニカルライティングとは、直接、関係がありません。これは、テクニカルライティングに限らず必要なことですよね。

Consistent Terminology (用語の一貫性): Maintain consistency in the use of terminology and abbreviations throughout the document. Create a glossary if necessary.

これは「用語」に限定されてはいますが、日本語の「一貫性と正確性」と同様です。キーワードに一貫性を持たせるのは、テクニカルライティングの鉄則の一つです。

Document Version Control (ドキュメントのバージョン管理): Keep track of different versions of documents, especially if they go through revisions. Clearly mark the date, author, and version number.

これは、日本語にはありませんでした。しかし、これはテクニカルライティングに限らず、ドキュメント全般に必要なことです。

Accessibility (アクセシビリティー): Ensure that the document is accessible to all readers, including those with disabilities. Use appropriate fonts, styles, and document formats that are accessible.

これも、日本語にはありませんでした。これは、“Inclusive design” (共用品設計)やユニバーサルデザインで使用される用語です。アクセシビリティーは、テクニカルライティングでも考慮すべきことだとは思いますが、テクニカルライティングの説明とは、直接、関係がありません。

Documentation of Processes and Procedures (プロセスと手順の文書化): In technical writing, it’s common to document step-by-step procedures, troubleshooting guides, and instructions. Use a clear, sequential structure for these sections.

これも、日本語にはありませんでした。しかも、これはテクニカルライティングとはまったく関係ありません。この用語や考え方は、ISO 9000の品質管理*のものです。上記にも、日本語のほうも含めて、直接、テクニカルライティングと関係ない項目が出てきていましたが、ここまでくると「ノイズ」としか言いようがありません。
*ISO 9000は「品質管理」だと言われていますが、正しくは「手順の管理」だと思います。ISO 9000で品質が向上するとは思えません。

Risk Management and Warnings (リスク管理と警告): In fields where safety is a concern, include warnings, cautions, and safety instructions as needed. Highlight potential risks and precautions.

これも、日本語にはありませんでした。しかし、これもテクニカルライティングとは関係ありません。この用語や考え方は、会社や製品やドキュメントの危機管理のものです。
上記の「プロセスと手順の文書化」のところで述べましたように、ここまで、テーマ(ここではテクニカルライティング)と関係の無いものを含めてしまうと、「ノイズ」としか言いようがありません。ここまでくると、逆に、テーマの適切な理解を妨げるものになります。

Review and Feedback (レビューとフィードバック): Have subject matter experts review the content for accuracy and usability. Incorporate their feedback to improve the document.

これは、日本語にもありました。しかし、これはテクニカルライティングに限らず、ドキュメント全般に必要なことです。

Compliance and Regulations (コンプライアンスと規制): If applicable, ensure that your technical documents comply with relevant industry standards, regulations, and legal requirements.

これは、日本語にはありませんでした。しかも、これはコンプライアンスに関する問題であって、テクニカルライティングの説明にはまったく関係はありません。

User Testing (ユーザーテスト): In some cases, conduct user testing to get feedback on the usability of your documents. This can help identify areas for improvement.

これも、日本語にはありませんでした。ユーザーテストはテクニカルライティングとは、直接、関係はありません。しかし、テクニカルライティングでドキュメントを書いて、それをユーザーテストすると考えれば、互いに関係の深い言葉だと言えます。

ChatGPTの回答に対する感想のまとめ

 英語での質問の回答には、日本語で最初に挙げられていた「クリアな目的設定」は見当たりませんでした。テクニカルライティングを考える場合、これは前提となる項目です。

 日本語と英語を比較すると、日本語と英語で同じような項目は5個だけでした。これは、共通のモデルを使っているというChatGPTの回答と矛盾するような気がします。ここのところ、ChatGPTに確認してみたいと思います。
 また、ChatGPTは、テクニカルライティングの必須項目として16個、挙げていますが、そのうち、「図表の使用」「改訂と校正」「ドキュメントのバージョン管理」「アクセシビリティー」「プロセスと手順の文書化」「リスク管理と警告」「レビューとフィードバック」「コンプライアンスと規制」の8個は、テクニカルライティングとは関係ありませんでした。

 このように、思いついたもの(だけ)を書くというのは、人間味があって面白いのでしょうが、16項目のうち、テーマと関係ない項目が半数というのは、はたして情報として適切なのでしょうか。チャットシステムなので、質問者が必要としているものは、だいたいこういうものだろう、これもついでに含めとけば満足するだろう(?)ってな感じで、ついつい冗舌になってしまうのでしょうか。いずれにしても、情報の理解を妨げる「ノイズ」が多すぎます。なぜテクニカルライティングと関係ない項目をこれだけ含めたのでしょうか。このあたりも、ChatGPTに聞いてみたいものです。

日本語や英語の質問で、回答が異なることについて聞いてみる

早速、上記の気になる2点を尋ねてみました。(少々長いです)

ChatGPTへの質問
先日、あなたに日本語で以下の質問をしました。
  Q: テクニカルライティングという英文のライティング手法がありますよね。その具体的な手法をすべて教えてくださいませんか。よろしくお願いします。

それに対するあなたの回答は以下のとおりでした。
クリアな目的設定
ターゲットオーディエンスの理解
シンプルな文体と言葉の選択
構造化された文書
具体的な例と説明
具体的な例と説明
図表の使用
一貫性と正確性
要約と強調
レビューとフィードバック
文法とスタイルの注意

以上の11項目

そして、ほぼ同時期に、あなたに英語で以下のような日本語と同様な質問をしました。
  Q: There is an English writing method called Technical Writing. Could you please tell me all the specific methods? I appreciate your help.

それに対するあなたの回答は以下のとおりでした。
Audience Analysis
Clear and Concise Language
Logical Organization
Use of Graphics
User-Centered Approach
Emphasis on Clarity
Technical Accuracy
Revision and Proofreading
Consistent Terminology
Document Version Control
Accessibility
Documentation of Processes and Procedures
Risk Management and Warnings
Review and Feedback
Compliance and Regulations
User Testing

以上の16項目

ここで、あなたからの回答に対して、私は2つ質問があります。

1.テクニカルライティングの具体的な手法についてのあなたからの回答は、日本語は11項目、そして英語は16項目ありました。そして、日本語と英語で類似した項目はAudience Analysis、Clear and Concise Language、Use of Graphics、Consistent Terminology、Review and Feedbackの5項目だけでした。
ということは、言語ごとにそれぞれの言語モデルを使って回答していただいていると思われますが、そこのところをどういう仕組みになっているのか教えてください。
なお、参考までに申しあげますと、あなたから、「ChatGPTは、トレーニング中に多言語のテキストデータを使用して学習されたモデルで、そのモデル内に多言語の情報がエンコードされています。複数の言語でテキスト入力を受け付け、その入力をモデル内で理解し、適切な言語で応答を生成します。このプロセスは、言語翻訳や言語特有のデータベースを使わずに行われます。」というお答えを以前、いただいております。

2.テクニカルライティングの具体的な手法について、英語では16項目挙げていただきました。しかし、その中のUse of Graphics、Revision and Proofreading、Document Version Control、Accessibility、Documentation of Processes and Procedures、Risk Management and Warnings、Review and Feedback、Compliance and Regulationsの8項目はテクニカルライティングと、直接、関係無いと思いますが、いかがでしょうか?
無関係の項目を多く含めると「ノイズ」が多くなり、せっかくの情報がわかりにくくなると思いますが、いかがでしょうか?

これに対するChatGPTの回答が以下です(こんな長い質問でも、すぐに回答をくれます)。

ChatGPTの回答
1.おっしゃる通り、私は多言語の情報がエンコードされた単一のモデルですが、言語ごとに異なる回答が生成されることがあります。これは、言語モデルが与えられた入力に対して適切な言語で応答を生成しようとするためです。また、質問の具体的な文脈に応じて異なる情報が強調されることもあります。したがって、英語での回答と日本語での回答が微妙に異なる場合があります。

2.テクニカルライティングに関連する方法として挙げた項目のうち、一部は間接的な関連性を持つ場合があります。たとえば、Use of Graphicsは情報の視覚的な表現方法としてテクニカルライティングに影響を与えることがあります。また、Revision and Proofreadingは文書の品質と正確性を確保するために重要です。Document Version Controlは文書の整合性を保つための方法です。Accessibilityは文書が広く利用可能であることを確保します。Documentation of Processes and Proceduresはテクニカルな手順やプロセスの説明に関連しています。Risk Management and Warningsは製品やサービスの安全性に関わります。Review and Feedbackは品質管理と改善に寄与します。Compliance and Regulationsは法的要件を満たす必要がある場合に関連します。

これらの項目は、テクニカルライティングの一環として重要であると言えますが、その重要性は文脈に応じて異なるかもしれません。一部の場合、テクニカルライティングのガイドラインに含まれないこともあります。したがって、テクニカルライティングにおける関連性は文脈に依存し、必要に応じて選択的に適用されるべきです。ただし、これらの項目を適切に統合することで、高品質なテクニカルドキュメントを作成できる可能性が高まります。

ChatGPTからの回答について考える

ChatGPTからの回答1について:
日本語と英語の16項目中、5項目だけが共通というのは、「英語での回答と日本語での回答が微妙に異なる」という範囲をはるかに逸脱しています。

ChatGPTからの回答2について:
こういったことがテクニカルライティングに含まれるというのなら、DTPやコスト管理、時間管理、はたまたローカリゼーションや製品のプレゼンテーションといった関連の作業まですべて含まれることになります。

悪い言い方をすれば、ChatGPTは、屁理屈を並べ立ててうまく言いくるめようとしているような気がしますね(笑)。ほかの分野はいざ知らず、少なくともテクニカルライティングの分野については、適切な整備が必要だと思われます。

Bing AIの回答は

Bing AIでは何と回答するのでしょうか。次回、Bing AIに、英語で同じ内容の質問をしてみた結果をお伝えします。 

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