テクニカルライティングのルールに則っているか確認するカスタム生成AIを構築し検証します。
これまで、ChatGPT 4.0にTCについて知っていることを質問し確認してきました。一般のライティングに共通したことの指摘も多かったので、テクニカルライティングのルールを細かく具体的に決めていくためのディスカッションも行いました。今回は、その成果を業務で活用することを念頭に進めていきます。
ChatGPT 4.0とのやりとりは英語で行っていますが、ここでは日本語訳を基本に紹介します。原文へのリンクを用意しましたので、合わせてご確認ください。
TechWrite Guru 誕生!
(検証日:2024/02/06)
ChatGPTのサイトでGPT Builderというものを見つけました。この名前から推測すると、これを使ってカスタムのGPTをつくることができるようです。早速、質問してみました。
(原文はこちらへ)
GPT Builder:やあ!新しいGPTを作るのを手伝ってあげる。たとえば、「新製品のビジュアルを生成するクリエイティブを作る」とか、「コードの整形を支援するソフトウェアエンジニアを作る」とか。
あなたは何を作りたいですか?
中村:この新しい GPT サイトで ChatGPT 4.0 を特定の目的に長期間 (たとえば 2 年または 3 年) 使用できますか?
GPT Builder:はい、特定の目的に合わせて調整された GPT モデルを、2 年や 3 年などの長期にわたって使用できます。特にここでは、固有のニーズに合わせてカスタマイズされた GPT を作成しています。 特定のタスクや役割に合わせて設計し、必要に応じて使い続けたり、改良したりできます。 この GPT を具体的にどのような目的や役割で使用しようと考えていますか?
どうやら、このGPT Builderを使えば、テクニカルライティングのサイトがつくれそうです。
中村:ドキュメントがテクニカルライティングのルールに従っているかどうかを確認したり、テクニカルライティングのルールに沿ってドキュメントを作成したり、さまざまな方法でチェックできるテクニカルライティング サイトをつくりたいと考えています。
GPT Builder:まず、このサイトに、テクニカル ライティングでの役割を反映した名前を付けたらいかがですか。 「TechWrite Guru」はどうでしょうか? この名前でいいですか、それとも別のよりいい名前がありますか?
中村:それでいいです。
GPT Builder:これが TechWrite Guru のイメージ画像です。 気に入っていただけましたか。それとも、もっと別のものがいいですか?
こういって、見せてくれたのは、伝統的なライティングのイメージでした。
中村:かなり時代遅れなイメージです。もっとモダンでさわやかでクリエイティブなイメージのものがいいです。
GPT Builder:これでいいですか?
まあ、こんなところでいいのではないでしょうか。もし、それなりのサイトになったら、また、その時に考えることにします。
中村:はい
GPT Builder:ここで、TechWrite Guru がテクニカル ライティングを支援する方法を詳しく考えてみましょう。まず、レビューはどの程度詳細に行う必要がありますか? たとえば、TechWrite Guru は構造や明確さなどの高レベルの概念に重点を置くべきでしょうか、それとも文法や構文などのより詳細な部分も掘り下げる必要がありますか?
中村:それについては、だいたいのものを示します。
GPT Builder:TechWrite Guruに重点を置いて欲しい概要や重要なポイントを共有してください。それに応じて機能を調整します。
先日つくったルール集を見せることにしました。
中村:(詳細割愛)
GPT Builder:テクニカルライティングの基本ルールや具体的なルールなど、TechWrite Guru の重点分野の概要が示されていますね。文書の目的と構造、対象読者の特定、文章の構成、段落の作成などを支援し、明瞭さ、簡潔さ、そして正確さを確保するために設定されていますね。
TechWrite Guruを試してみて、ライティングにどのように役立つかを確認してください。ほかに何かあったら、気軽にどうぞ。
中村:ありがとう。私は明日からその有効性の確認を始めます。
GPT Builder:どういたしまして!TechWrite Guruを使い始める際に質問がある場合や、さらなる調整が必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。技術的な文章を書いて幸運を祈ります。あなたが助けを必要とするときはいつでも私はここにいます。TechWrite Guruと一緒に楽しい時間を過ごしてください!
トライ!TechWrite Guru
(検証日:2024/02/07)
TechWrite Guruへの指示
さて、実際に”TechWrite Guru“を使用してみたいと思います。
(原文はこちら)
中村:以前申しあげたとおり、「TechWrite Guru」というプロフェッショナルなテクニカルライティングサイトを完成させてほしいと思っています。 ここでの目的は、次の2つのことを段階的にできるようになることです。
1. 英語ドキュメントの評価:修正とリライト
2. 与えられた仕様書を基にした、簡潔でわかりやすい英語文書の作成
最初の目標は上記の1を達成することです。 与えられたチェック対象ドキュメント中の英語テクニカルライティングの問題点を指摘し、その「品質」を評価することを目的とします。 「品質」は次のように定義します。
品質:文書の内容はできるだけ多くの人がすぐにアクセスできるようにする(インクルーシブデザイン)
そのクオリティを評価するためのツールは、以下の「テクニカルライティング評価項目」です。与えられた英文ドキュメントを読んで、「テクニカルライティング評価項目」を使ってそれぞれの文やパラグラフを、以下のように指摘していきます:
[Example]
Bad: Commence the procedure following the completion of the checklist.
Reason: Violation against TW-S-10
Recommendation: Start the process after finishing the checklist.
「テクニカルライティング評価項目」
(詳細割愛)
TechWrite Guru:TechWrite Guruとして、私の目的は、テクニカルライティングに焦点を当てた英語文書の評価と改善を支援することです。コンテンツのアクセス性と品質の向上を目指して、明確性、正確性、簡潔さ、構造、包括性に関する問題に対処します。評価したい文書や文章を入力してください。改善点を特定し、推奨事項を提示するために、「テクニカルライティング評価項目」を適用します。
中村:ありがとう。次の短いドキュメントを改善するための推奨事項はありますか?
Observe the following instructions to avoid a foreseeable misuse:
– Place the device for airing damp clothing at a minimum distance of 2 metres, and secure the garments with clothes pegs.
– When transporting the device in containers other than the original packaging secure it against falling over and impact damage.
– Do not make any structural changes to the unit which are not described in the manual.
– Do not load or burden the device with other objects.
– Do not insert objects or parts of the body through the safety grille, while the device is connected to the mains power supply.
– Only use the device with a humidity of less than 65%.
– Do not use the device for heating objects.
– Place the device for heating the air at a minimum distance of 2 metres to persons and objects and turn the swivel function on (see section 5.1)
TechWrite Guruによる評価
TechWrite Guru:あなたのドキュメントには、デバイスの重要な安全上の注意事項が記載されており、技術文書の重要な側面となります。 用意された「テクニカルライティングの評価項目」に基づく評価は以下のとおりです。
#評価の詳細はこちらを参照ください
以下に、これらの推奨事項を取り入れた文書の改訂版を示します。
今回の改訂は、効果的なテクニカルライティングの原則を遵守し、指示をより直接的に、より明確に、より理解しやすくすることを目的としています。
中村:ありがとう。
TechWrite Guru:どういたしまして!さらに質問がある場合や、さらにサポートが必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。お役に立てて嬉しいです!
なんということでしょうか。TecWrite Guru、つまりChatGPT 4.0は、ドキュメントの癖をすべて指摘して、テクニカルライティングのルールに則(のっと)って、あっという間にわかりやすくリライトしてくれました。これは画期的であり、すばらしいことでした。
検証!TechWrite Guru
(検証日:2024/02/08)
TechWrite Guruのリライトの成果は? 特長的なポイントとは
TechWrite Guruにリライトしてもらったものをよく見てみましょう。以下に、原文とリライト文を並べます。
おわかりいただけるように、すべての文が簡潔にリライトされています(ただし、最後から2つ目の文はどちらも同じ文)。原文で”Observe the following instructions”という定型的な表現も、” To prevent misuse”と具体的で直線的に、わかりやすく表現されています。
そのほか、TechWrite Guruによるリライトを読んで感じたことを申しあげます。リライト文中に下線を引いた以下の3か所です。
1.metres (メーター)
2.using original packaging
3.turn on the swivel function
1. metres (メーター)
このスペルは、イギリス英語(BrE)でした。アメリカ英語(AmE)でしたら、”meters”と書きますよね。英文のドキュメントを依頼するときは、最初に仕向地を指定することが必要です。私もうっかりしていました。
イギリス英語でもアメリカ英語でもどちらでも同じじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、仕向地や商品によっては、これは重要なことです。商品に同梱されていた説明書が馴染みのない表記で書かれていたら、違和感を覚えてしまいますよね。それに、最先端の製品を購入したのに、その付属の説明書が伝統を重んじる英語で書かれていたら、これってほんとうに最先端の製品なのかと疑問を持たれるかもしれません。一般的に、アメリカ英語でしたら最先端の機器か大量生産の商品をイメージさせる傾向があります。また、逆に、イギリス英語でしたら伝統的な商品や陳腐化した製品をイメージさせる傾向があります。
ここでは、特に断りが無い限り、アメリカ英語で書くことにします。このことをChatGPT 4.0に伝えることにします。
2. using original packaging
“using original packaging”と書かれていますが、この“packaging”は、どの「梱包材」のことでしょうか。「元々製品が入っていた「梱包材」ですよね。であれば、それは1つしかありませんので“using the original packaging”でなければなりません。ChatGPT 4.0は、なんでこのような初歩的なミスをしたのでしょうか。これは、ChatGPT 4.0に尋ねてみたいと思います。
3. turn on the swivel function
ChatGPT 4.0はすばらしいですよね。原文が”turn the swivel function on”と、「動詞」”turn”と「副詞」”on”の間に長い名詞” the swivel function”を挟んでいたのに対して、ChatGPT 4.0は、”turn on the swivel function”と名詞を外に出しています。英語ネイティブの方はよく原文のような書き方をされますが、正しい書き方はChatGPT 4.0のほうです。イディオム動詞を使用するときは、「動詞+副詞」の間に名詞は挟みません。逆に、代名詞であれば、「動詞+副詞」の間に挟みます。これは、「動詞+副詞」の間に名詞を挟むと文がわかりにくくなるからです(Steven Pinkerさんもその書籍の中でおっしゃっています。Pinkerさんの本のタイトルは忘れましたが、「The Stuff of Thought」か「The Sense of Style」でした。どの本だったか調べるのが面倒なので、ついでにどちらの本だったかTechWrite Guruに尋ねてみます)。
TechWrite Guruのリライトに基づく追加のQ&A
以上、3点のことをTechWrite Guruに質問してみたところ、TechWrite Guruにも賛成してもらえました。
#やりとりの詳細はこちらを参照ください。
3件について、もう少し説明いたします。
- アメリカ英語にするかイギリス英語にするかは、完全に発注者側の責任です。もちろん、どちらも指定されていない場合は、上述のとおり、一般的に、アメリカ英語であれば最先端の機器か大量生産の商品をイメージさせる傾向があり、イギリス英語であれば伝統的な商品や陳腐化した製品をイメージさせる傾向があります。
ただ、このことでTechWrite Guruに謝られても、本来は私の責任だったことなので、ちょっと戸惑ってしまいます。しかし、そうは言うものの、ChatGPT全般の話なのですが、”Chat”という言葉がその名前に付けられているように、ChatGPTには会話を盛り上げるしかけがあるそうです。というのは、ChatGPTに、いや、そうではありませんと否定的に答えられたり、そこはこちらのほうが正解ですなどと訂正されたりするよりも、どちらかというと、そうですよね、おっしゃるとおりですというように太鼓持ち的な答え方をしてくれたほうが、ユーザーも気分が良いですからね。
私なんか、若いころからずっと、上司の話を聞いても、いえ、違いますとすぐに反論していました。その結果、なかなか会話も盛り上がりませんでしたし、昇進もしませんでした(今ごろ気づいても遅すぎますが)。
ということで、ChatGPTとチャットするときは、ChatGPTからの答えを、そのまま受けるのではなく、客観的に評価するようにしましょう。 - 定冠詞の抜けという冠詞の問題は、私にはちょっと気になるところです。もちろん、文法の細かな話ではありますが、冠詞は文中で重要な意味を持ったりします。特に、日本人は冠詞を意識しませんので、このあたり、ChatGPTにしっかりとケアしてもらいたいものです。
- 実は、文法的には、イディオム動詞(動詞+副詞)に名詞を挟むか挟まないかは、どちらでもいいとされています。しかし、動詞と副詞が離れることによって文の理解が遅くなったりわかりにくくなったりするということで、イディオム動詞には名詞は挟まないとするのがより正しいです。
PDFやWordのテキストを校正するときのQ&A
今回、TechWrite Guruは、短い英文のドキュメントを適切に評価してくれました。巷で書かれている英文ドキュメントをわかりやすいものに書き換える良いツールになるのではないかとじゅうぶん期待が持てます。
ただ、その方法をどうするかがわかりません。まさか、100ページ、またはそれ以上のページ数のあるドキュメントをどのようにしてTechWrite Guruに見せるのでしょうか。インターネットのサイトであれば、そのURLを示せばいいのでしょう。しかし、PDFやWordなどはどうしたらいいのでしょうか。AIにドキュメントを読み込ませたりしている人がいますが、いったいどうしているのでしょうか。この件は、TechWrite Guruに質問してみることにします。
#やりとりの詳細はこちらを参照ください。
TechWrite Guruによれば、以下の3つの方法があるそうです。
- ドキュメントを小分けにする。
- 小分けにできないのであれば、要点を要約する。
- ドキュメントをクラウド ストレージ サービス (Google Drive、Dropbox、OneDrive など) にアップロードし、ここでリンクを共有する。
ぱっと見たところでは、1が一番簡単そうです。章単位とか節単位に分ければいいということですからね。でもその場合、文のスタイルやトーンが章/節ごとに変わったりしないでしょうか。
2は、だめですね。本文を評価してほしいので、これは論外です。
3は、TechWrite Guruは、直接クラウドの情報にアクセスできないとのことなので、データのやりとりができるような設定が必要ということですね。
簡単に進めるのであれば、やはり1の方法が簡便ですね。
みなさまへのお願い
TechWrite Guruを精度を上げていくうえで必要になるのがテキストです。いろいろなテキストで検証を進めることで、TechWrite Guruは驚異的に進化していきます。
そこでみなさまにお願いがあります。テキストをお預かりして、その内容をTechWrite Guruに検証させていただけないでしょうか。校正の結果と共にテキストを適切に評価、改善して、お返しいたします。みなさまの業務に生成AIを活用することで、作業効率をあげられそうかご確認ください。
TechWrite Guruの目的:
・日本文/英文の品質を向上させる
・機械翻訳の場合:翻訳の品質を向上させる
・結果として、作業効率を上げる
準備いただきたい原稿:
・日本文、英文のテキストデータ
(終わり- ChatGPT 4.0は、TCライティングに活用できるか? – (3) カスタム生成AI TechWrite Guruの誕生)
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